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オリジナル小説『私イズム!』第1回。

・小説 『私イズム!』 

・プロローグ。


「ふざけんなよ!このくそ女!」 

それは、愛名(あいな)にしてみたらちょっとした冒険だった。

「ちょっ…やめ…止めてください・・・!」

 だというのに、どうしてこんな事になってしまったのか。

「うるせぇ!テメェのせいで女が帰っちまっただろうか!どうしてくれんだよ!あぁ?……どう責任とってくれるんだ?……お前が代わりに相手してくれるってか?」

 大きな声と、壁を叩く音。そして、いやらしい目。
 金髪の大男に路地裏の袋小路に追い詰められ、愛名は気丈にふるまいつつも、震えが来るのを止められない。

「そんな…そんなの……私のせいじゃ…!」
「じゃあ誰のせいだよ!ああ?言ってみろよコラ!」

「そんなん決まってんじゃん、あんた自身のせいだよバカ野郎」

 唐突に、響く声。
 脅す側と脅される側、そのどちらもが、声のした方へと目線を向ける。

「アンタが弱いから負けた、それだけだろ?自分の実力も知らないで女の前でカッコ付けようとしてボロ負け、しかも女相手に…で、恋人は愛想を尽かす…どう考えてもアンタの自業自得だろうが」

 路地の入り口に仁王立ちして、男に睨みを利かす声の主は、小柄でありながら、どこか威圧感をもつ女の子だった。
 風になびくセミロングの黒髪、少し釣りあがった瞳が特徴的な、整った顔。
 可愛らしい制服……には不釣合いの、真っ赤な、指が出るタイプのグローブを両の手にハメ、膝にも同色のサポーターの様なものが付いていた。
 小柄な体格も手伝って、一見すると中学生のようだが、着ている制服は、高校の物だ。
 愛名からすると、とても見覚えの有る、高校の制服。

「…全く、最近はアンタみたいなヤツも減ってきたと思ったのに……まだ居たのか、ある意味、希少価値だな」
「なんだコラお前?変な格好しやがって。カンケーねーだろ?黙っとけチビ女」
「………あ?」

 その刹那、空気が変わった。

「…………変な格好?……チビ女?」

 そう呼ばれた彼女から、凄まじいオーラが出た……ように見えた。

「黙るのはアンタだよチンピラが…!禁句を二つも並べやがって……!しかも、弱いうえにリアルファイト……。…天誅が必要だな」
「弱いだぁ?この俺が?ざけんな!」
「弱いだろうが!その子にボロ負けしたくせにさ!」
「…それは!コイツが卑怯だからだ!まともに戦えば負ける訳ねぇんだよ!」
「…ハッ!どの口が言うかね。アレが卑怯?アタシだったら、バックステップから最大反撃叩き込んで楽勝だったね。アレに反撃できないのは、アンタの知識不足だ。知っていれば出来たことを知らなかったから出来なかった。知識は、そのまま強さに繋がる。知らなかったは済まされないんだよ!」

 一気にまくし立てたその声の力強さと正論に、思わず怯む大男。

「……う、うるせぇ!黙りやがれ!」

 だが、それを振り払うかのように男は拳を振り上げ、声の主に向かって走る!

「…やれやれ…言っても分かんないか……」

 ブンッ!と振り下ろされた拳を、女の子はひらりとかわす。

「…っ・・と、テメ…!」

 かわされてバランスを崩した男が、女の子に向き直ったその瞬間…もう、勝負は決まっていた。
 その視線を塞ぐように顔面に迫ったのは、女の子の…サポーターに包まれた赤い膝!
 ゴッ!
 鈍い音が狭い路地裏に響き、男はゆっくりと後ろに倒れ、そのまま動かなくなった。
 その顔には鼻血が溢れ、丸く残った膝の後を赤く染めていた。

「ふん…赤を見るたび思い出せ」

 そう吐き捨てると彼女は、愛名の方に歩みを進める。

「大丈夫?」 

 腰を抜かし座りこんで、脅えて見ているだけしか出来なかった愛名は、はっと我に返り、口を開いた。

「あ…その!……助けていただいてありがとうございます!」

気位の高い愛名だが、礼儀はきちんとわきまえている。
「何か御礼を…」と言いかけたところで、彼女の顔を近くでハッキリと見て、その愛らしさに思わず愛名の口から「可愛い…!」と声が漏れる。

「ん?なに?」

 聞こえなかったのか、少女が聞き返してくるが、愛名は慌てて、「いえその!何か御礼をさせて頂けますか?」と返す。
 初対面で、助けてもらって、突然「可愛い」はセリフとしておかしいのは解っているので、何とかごまかした形だ。

「ん?礼なんていいっていいって。それより大丈夫?」

 少女がそう言って手を伸ばしてきたので、その手を掴む。
 少し、ドキドキした。
 そのまま手を借りて立ち上がり、服の汚れ払っていると、少女の視線が自分の顔に熱く向けられているのに気づく。

「……どうか、しましたか…?」

 その視線の熱さに体温が上がりそうになるが、その眼が何を物語っているのか気づくと、愛名の体温は急激に下がり始める。

「………いや…アレ?アンタどこかで見たことが…確か…」

 その瞬間、愛名の危機察知能力が最大限に働いた。

「あ、あの!申し訳有りませんが急ぎますので失礼します!本当に、あなたに感謝を!」

 何かを言いかけた女の子の言葉を遮る様に、そう礼を述べて愛名は慌ててこの場を走り去る。

「あっ、ちょっと!お~い!」

 背中に向けられる声を、聞こえないフリで置き去りにして、愛名はとにかく走った。

「ああもう…最悪です…!」

 息を切らせながらも、そう呟かずにはいられない愛名だった。


 だが、本当の最悪は、翌日やって来た。
 

 僅かな喧騒と、窓から入り込む柔らかな風。
 県内髄一のお嬢様学校と噂される高校、「私立春麗(しゅんれい)女学院」の昼休み。
 二年二組の教室で窓際の席に座り、窓の外を眺めているその生徒こそ、誰であろう「綾塚 愛名」その人である。
 スラリとしたスタイル。
 色気を感じる目元。
 どこか物憂げな雰囲気。
 まさに「お嬢様」を絵に描いた様なその艶姿に、クラスメイトでさえも気軽に声をかけることが出来ず、憧れにも似た視線を遠くから投げかけるのみ。
 艶やかな黒髪を僅かに揺らし風を浴びるその姿は、なるほど同姓であろうとも目と心を奪うに充分な魅力を帯びていた。
 浮世離れすら感じる雰囲気に、多少のとっつきにくさは有るものの、それすらもむしろ高貴な魅力に思わせてしまうカリスマ性さえ持ち合わせている。
 しかも、日本を代表する大企業「綾塚グループ」の一人娘となれば、その感情にも拍車がかかろうというもの。
 まるで彼女の周囲だけ、空気の色が違って見えるような錯覚さえ―――――

 ガララララララバンッ!

 ――――と、そんな空気を霧散させるかのような騒がしい音を立てて、教室の扉が開かれた。
 教室内がざわめき、全員の視線がそちらに集中する。
 そこに立っていたのは……制服には不釣合いの、赤いサポーターを膝と肘に付けた女の子…。
 愛名からすれば、既視感を感じる状況だった。
 そして次の瞬間……女の子と愛名の視線が、バチッ!と音を立てたのではないかと思うほどに完全に絡み合った。

「おっ!居た居た!やっぱりアンタだったんだ!」

 女の子はそう声を上げると、ぶんぶんと手を振りながら愛名に近付く。 
 愛名はあわてて目を逸らし、何事も無かったかのように窓の外へと視線を戻す。
 ……だが、その内心は、心臓の鼓動が全身を震わせるのではないかと錯覚するほどに、激しく動揺していた。
(ど…どうして?どうしてここへ?)
 けれど、そんな愛名の心の内など知る由も無く、女の子はズカズカと近付いて来て、ついには、愛名の机に手を乗せる。

「よっ!昨日はどうも。クラス分からなかったから探しちまったよ!」

 その瞬間、クラス中に、さらに廊下にまでも、ざわついた空気が充満した。
 騒がしくする事は下品とされ、話す時も常に小声、おしとやか。
 それを宗とするこの学園で、この騒がしさは異質だった。

『……どういうこと?あの下品な子、愛名様とどういう御関係なの?』
『…あ、私あの子知ってますわ。素行の悪い事で有名な、この学園に最も相応しくないと言われている子よ?』
『そんな子がどうして愛名様に?』

 あちこちでそんな会話が立ち上がり、ざわつきはさらに広がりを見せる。
 だが、それに気付かないのか意に介していないのか、女の子は話を続ける。

「昨日は何ですぐに帰っちゃったのさ。私、アンタと戦ってみたかったのに」

 ざわつきは、ついには喧騒へと変わる。

『戦う?戦うってなんですの?』
『愛名様は何か武道を嗜んでおられたかしら?』
『…いえ、耳にしたこと有りませんわ』
『じゃあ、いったい…?』 

 それらの会話が耳に入って来る愛名としては、気が気ではない。
(ああ…!今まで築きあげてきた私のイメージが…!)

「アンタ、あの男をボコボコにしてたろ?あれは結構良かった!」

『男の人を?』
『ボコボコですって?』

(違う!違うのよそれは…!)

「ちゃんと練習のあとが見える連携だった。だから、アタシも一戦…と思ってたのに、あのバカがアンタを無理矢理連れ出そうとしたからさ、嫌な予感して後を付けたらアレだもんなぁ…困るよなぁバカは…。あ、そう言えばさ、あの二戦目の連続技有ったろ?あれってどういう仕組みなの?ちょっと面白い動きだったよね」

『二戦目!?』
『連続技?なんだか物騒ね…』

(ああもう…だから違うのに!違うのに~!)

「だけど、中段への対処はちょっと課題だよね、相手の叩き付けもわりと食らっちゃってたし、あのダメージはけっこうデカイからさ」

 大きくなる一方のざわめきに、耐え切れずについに愛名は声を上げる。

「あのっ!ち、違います!これは全部、格闘ゲームの話ですから!」

 ………しばしの沈黙。

「何言ってんの?そんなの当たり前じゃん」

 沈黙を破った女の子の言葉をきっかけに、再びざわめき。

『格闘ゲームですって…?』
『私知ってますわ、殴りあう野蛮なゲームですの』
『ええっ?そんな物をあの愛名さんが?』

 ……完全に対処を間違えた。
 愛名がそれに気付くのには、2秒も必要無かった。

「…あ、そういや名乗ってなかったよね、アタシは菜射(ないる)、三葉(みつば) 菜射だ!よろしく!」

 頭を抱える愛名の耳に、菜射の能天気な名乗りと、授業開始を告げるチャイムがかすかに響いていた……。

 
                第二回につづく。

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