« 『君に届け』24話! | トップページ | 3月25日のアニメ一言感想。(ネタバレあり »

オリジナル小説『私イズム!』第14回。

第13回はこちら。


第四章
[よろけた時には必死にレバガチャ] その2


「あ~お風呂気持ちよかった!」

 夜、風呂上りの愛名は、そう声を上げて、ベッドに横になる。
 部屋の隅では、香澄が指示を待ち控えていた。

「ねえ香澄?学校の明日の時間割ってどうなってたかな!ちょっと調べてくれる?」
「……お嬢様、明日は創立記念日で休校ですよ」
「…あ、あれ?そうだった?あははは~私とした事が失敗しちゃったなぁ!!」

 声を上げて笑う愛名。
 だが、それを見つめる香澄は、とても笑う気になれなかった。

「……お嬢様…どうかされたのですか?」

 愛名の言動は、誰がどう見ても不自然で、空元気なのは一目瞭然に思えた。

 今まで、こんな事は一度も無かった。

 どんなに理不尽な怒りも、悲しみも、グッと抑え付けて来た愛名の感情が、漏れている。
 側で仕えてもう七年になる香澄が、その変化に気付かない筈が無い。

「っ……何がよ?変なこと言わないでくれる?!」

 感情が、吹き出る。

「もういい!私は寝るから!出ていって!」
「けれど、お嬢様…!」
「いいから!」
「…………わかりました、何か有ったら、お呼び下さい」

 香澄は、頭を下げて部屋を出ていく。
 去り際に一瞬見せた、とても寂しそうな顔が愛名の心に強く残った。

(…………私……最低だ…!)

 完全な八つ当たり。
 自分でもわかっている。
 けれど、どうにも出来ない。
 そんな自分の感情が許せなかった。

 愛名は、ベッドに横になる。
 何もかも忘れて寝てしまおうと思った。
 …………けれど、眠れない。
 昂った感情が、眠る事を拒否している。

「……もう!」

 苛立ちを口から吐き出すかのようにそう声を出し、寝返りをうつ。
 ……と、机が目に入った。
 いつも使っている、勉強机だ。

(……………勉強でもしようかな…)

 子供の頃から強制的にやらされてきた勉強だが、愛名は嫌いではなかった。
 むしろ、集中している間は時間を忘れられるモノでも有ったし、確実に成長していく自分を実感するのは楽しかった。

(そういえば、たしか明後日までにやらなきゃならない宿題が…)

 思い出し、立ち上がる。
 それは、急いでやれば一時間もかからないような物で、今やる必然性は全く無いのだが、今の状態でやるなら、難易度的にも時間的にも丁度いい。
 終わる頃には眠気もやってくるだろう。

 そう考えて、愛名は机の前に座る。
 そして、カバンからノートを取り出そうとした時に……見つけてしまった。

 幸果から借りた、ムックを。

「あ……………」

 そっと、それを手に取る。

「………っ……!」

 自然と、涙がこぼれた。
 別れの時には我慢した涙が、一人になって湧き上がる。
 ぽたぽたっ!と涙がムックを濡らす。

「…ああっ…」

 慌てて、涙をふき取る。
 表紙は、水を弾く加工になっているので、シミは付かなかった。
 それに一安心すると、ゆっくりと表紙を撫でる。

「………これ…どうしたらいいのかな…」

 借りたまま、と言う訳にはいかない。
 けど、今更返しに行くのも……ポストや新聞受けにでも入れようか……考えながら、無意識にムックを開く。
 パラリ、パラリ……一ページずつゆっくりとめくる。

(…そういえば、あまりちゃんと読んでなかったかも…)

 チココの攻略記事はそれなりに読んだが、後は流し読みしただけだ。
 限られた時間の中では、ムックを読むよりも、実際にゲームをプレイする事を優先して、後回しになっていた。

「………………………」

 …………そこには、ページ狭しと詰め込まれた情報の山…。
 一つ一つの技の詳細なデータ。
 基本的な戦い方。
 効果的な連携。
 高威力高難度連続技……。

(……何を今更…)

 思わず読み込んでしまっている自分に気付き、自嘲気味に笑う。
 本を閉じようとしたその時……目に入った記事……

『対トイズ対戦攻略!』

 そう、書いてあった。
 トイズ以外にも、全てのキャラに対して、どう戦えば良いのか、何に気をつけるべきか、どの技が有効なのか。
 それらが、詳細に、キャラ別に有効な戦法が書かれている。

 ……………!!

 愛名の全身に、電気が走ったような衝撃。

「これ・・・・・・・これは…」

 そこには、まさに今日、自分がやられた技、連携にどう対処すべきかが詳細に書かれていた。
 頭に焼き付いて忘れられない試合の映像が浮かぶ。

 あの時……こう動いていれば……!

 気付けば愛名は、ゲーム機の前に居て、本を読みながらスイッチを入れていた。
 そして、すぐさまトレーニングモードへ。

 自分はチココ、相手はトイズを選択し、REC機能という、プレイヤーの動きを覚えさせられる機能を使い、トイズのページを見ながら、連携を覚えさせる。
 そして再生すると、トイズは自動で同じ動きをする。
 愛名は、それに対して、チココを動かす。

「ここでガードして……このタイミングで……走る!」

 すると、相手の連携をダッシュでくぐれる!
 後は、相手の隙に連続技!

「……………こんな……こんな簡単なことで…?」

 特定のタイミングでダッシュをするだけで、連携を抜けられるだけじゃなく、反撃まで………。

 その瞬間浮かぶ、一つの言葉。


「知っていれば出来たことを知らなかったから出来なかった。知識は、そのまま強さに繋がる。知らなかったは済まされないんだよ!」


 ……………言っていた。
 
 初めて菜射と会ったときに、菜射はあの男に向かって確かにそう言っていた。
 
 それを、思い出した。
 そして………その言葉の、本当の意味を知った。

「こういう…事なんだ……」

 愛名は、取り付かれたようにムックを読み込む。
 知る、知る。
 知識を、蓄える。
 相手キャラによって違う、有効なけん制技、連携、特定のキャラ専用連続技。
 攻められたときの対処、効果的な返し技……裏の選択肢。

(そうだ……たまに、菜射さんや幸果さんと闘っている時に、どうしてそのタイミングでその技を?って思うことが有ったけど……こういう意味の行動だったんだ…!)

 熟練者は、自分の連携の穴も知っている。
 だからこそ、普通ならば必要の無い技でも、『その穴を抜けようとする相手にはヒットする』…そういう行動を入れる事が有るんだ……!

 ぞくぅ………!!

 全身に鳥肌が立つのがわかった。

 何かが、浮き上がってくる。

 重りを付けて、深く深く沈めた筈の、何かが。

 ……熱が。

 ゆっくりと、浮上を始めていた。

          第15回につづく。

|

« 『君に届け』24話! | トップページ | 3月25日のアニメ一言感想。(ネタバレあり »