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オリジナル小説『私イズム!』第15回。

第14回はこちら。


第四章

[よろけた時には必死にレバガチャ] その3


「お嬢様?お嬢様、そろそろ朝食のお時間ですが……」

 朝、いつものように香澄がドアをノックするが、返事が無い。

 もう一度繰り返す。

 ………やはり返事が無い。

 昨夜の事も有り、気になった香澄は、メイドとしては失格な事を承知で、ドアノブに手をかけた。
 主人の許可無く部屋のドアを開けるなんて……そんな罪悪感は、愛名への想いでかき消して、ゆっくりとノブを捻る。

 鍵は、開いていた。

 そっと部屋の中を覗こうとした瞬間………ガチャチャチャ!という音が耳に入ってきた。
 この音は知っている。
 ゲームのスティックコントローラの操作音だ。 

 ………と言う事は……。

「………お嬢様~……」

 予想通り、テレビの前でゲームをプレイしている愛名の姿がそこに有った。

「………ん?えぁっ!こ、こら香澄!許可無く部屋に入っちゃダメじゃないの!」

 香澄に気付いた愛名は、いたずらを見つかった子供のような慌てっぷりを見せながらも、主人としての注意を口にする。

「す、すいません……じゃなくてですね!なんで返事しないんですか!心配するじゃないですか!」

 その香澄の反論に対して愛名は、「?」と言う顔をする。

「………声、かけてたの?」

 照れくさそうに聞き返す愛名に、香澄は大きくため息を吐く。

「…それはもう、何度もかけましたよ。ノックもしましたし!」
「あ~……ごめんねっ」

 ペコリと頭を下げて、恥ずかしそうに頭を掻く愛名の姿を見て、香澄は気付いた。

(…………いつものお嬢様だ…!)

 一晩で何があったのか、香澄には知る由も無いが、それでも今はただ嬉しい。

「こほん、では改めて…お嬢様、お食事の用意が出来てますが、いかがいたしますか?」
「あ~……ご飯ね、そうね、食べなきゃよね」

 何故かそこで、考え込むような様子を見せる愛名。

「…お嬢様?」
「………手間を取らせて悪いけど、部屋へ運んでもらえる?」
「それは…構いませんが、どうしてですか?」
「……うん、ちょっとね。今は一秒でも多く練習したいの」

 そう言うと、愛名はゲーム機へと視線を向ける。

「練習って…ゲームですか?」
「うん。…たかがゲーム、って思うでしょう?」

「いやその……はい」

「あはは、正直ね、香澄。うん、でも私自身もちょっと思うわ。―――――けど、私は今、心の底から、上手くなりたい、成長したいって思ってる。………こんなにも、熱中できる物に出会えた嬉しさを噛み締めていたいの。そして――――」

 そして、あの子に、燕に勝ちたい。

「お嬢様………」

 香澄は思う。
 昨日から驚く事ばかりだ、と。
 今まで、常に何かに耐えていたお嬢様が、こんなにも感情豊かな表情を見せてくれている。
 それはもしかしたら、この綾塚の家族達にとっては、好ましくない方向なのかもしれない。
 けど、人間としては、とても良い事。
 そう思うから、だから――――――。

「ご家族への言い訳はどういたします?」
「香澄……ありがとう…!」

 二人は、笑顔を見せ合う。
 信頼と、愛情を込めた笑顔を。

「……そうね、今日は一日集中して勉強したい、とか何とか言っておいてくれる?それで多分大丈夫だから」
「……本当ですか?私怒られるの嫌ですよぅ…?」
「大丈夫よ。…もし怒られたら、私が直接言いに行きますから」

 もちろん香澄としては、家人に嘘をつくのはあまり気が進まなかったが、他ならぬお嬢様の頼みとあれば、ここは覚悟を決めるしかない!と腹をくくった。

「ではお嬢様!行ってまいります!」

 ビシッ!と敬礼をしてみせる香澄。
 それに対して、愛名もビシッ!と敬礼を返す。

「うむ!言ってまいれ~!」

 そして、二人で大いに笑った。
 以前よりも、強い絆で結ばれたような、そんな感覚をお互いに感じながら。


・・・・・・・・

 
 愛名は、大きく深呼吸をする。

「はぁ~……ふぅ~………んあ~……緊張します…!」

 心臓がバクバクと脈打ち、体温が上がっているような下がっているような、不思議な感覚。
 しばらくそのまま立ち止まっていたが、思い切って足を踏み出す。
 
 菜射と一緒に行った、あのゲームセンターの店内へ……。
 
 入店と同時に、騒音が耳と腹に響く中、愛名は店内を見回す。
 
 あの時は、ランバト様に店内の配置を動かしていたのだろう、少し様子が違う。
 しかし、「PWM」の筐体は目立つ位置に有ったので、直ぐに見つけることが出来た。
 筐体の周りには、数人が壁を作るようにして、順番待ちをしていた。

 そして……二台有る筐体の内一台で、連勝を続ける少女を見つけた。

 風斬 燕―――間違いない、キャラもトイズだ。

 少しの間、他のプレイヤーとの対戦を見つめていたが、ふと席が空いた。
 その場に居るプレイヤーは全員打ちのめされた様子で、どうしたって勝てない、という諦めの空気が周囲を包み、乱入を躊躇わせていた。

(――――――今なら!)

 愛名はポケットに入れた五十円玉を握り締めて、椅子に座る。
 この店が1プレイ五十円なのは調査済みだ。
 ランバトの時のようにハの字形ではなく、筺体を背中合わせに置いてあるので、座ってしまえば相手の顔は見えない。
 けれど、座る直前、向うから少しこっちを見ていた気がして、一瞬心が委縮する。

(…………関係ない!)

 相手に見られていようとどうだろうと、私は私に出来る事を…!

 自分の心に言い聞かせて、気合を入れ直す。

 あれから五日間。
 休日は殆ど一日中。
 学校のある日も、真っ直ぐに帰ってきて、出来る限りの時間をゲームにつぎ込んできた。
 それでも、まだ勝てるかはわからない………でも……!

 ジャッ!

 五十円玉投入!

 スタートボタン!

『乱入者!来たれり!』

 画面が切り替わり、キャラ選択画面に。
 もう一度深く息を吸い、チココを選択。
 僅かな画面切り替えの時間が、いつもより長く感じる。

 そして――――勝負が始まる。

『勝負、開始!』

 さあ……行くよ…!

 リベンジだ!

 
             第16回につづく。

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