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オリジナル小説『私イズム!』第19回。

第18回はこちら。

 第六章

[追い詰められて画面端] その2


 翌日から、監視の日々が始まった。
 朝は校舎の中に入るまで常に見張りが付き、帰りも下校時間の前から外で車が待ち構えていて、決して逃げられない。
 お嬢様学校故の厳重さで、校門以外には出入りできる場所が存在しないのも、見張りを容易にしていた。

 さらには学校にも手を回し、授業が終わると同時に教師から見張りへと連絡が行くようになっているらしく、少しでも時間が遅れると不審に思われてしまう。

 完全に、八方塞がりだった――――――


「はい、すいませんこんな状況になってしまって……けど、絶対に何とかします、待っていて下さいますか?…………はい、でもその………もしも幸果さんが別のメンバーを探したいと言うのなら……え、あ…ありがとうございます。ごめんなさい……その…」

 その時、ドアがコンコンコンと三度叩かれた。

 ―――合図だ。

 愛名は慌てて、手に持っていた携帯電話に「…!すいませんもう切ります、またそのうち連絡します!」と言って電話の電源を切り、隠す。
 数秒の後、ノックも無しに突然部屋のドアが開かれて、ちずるが入ってくる。

「……ちゃんと居るわね」

 勉強机に座っている愛名を確認し、そう呟いた。
 日に何度か、こうして確認に来る。
 よほど愛名を外に出したくないらしい。

「……お母様、わざわざ確認に来なくても、こんな状況では外へなど出られる筈も無いではありませんか」

 机の上のノートに鉛筆を走らせたまま、珍しく、少し嫌味っぽいセリフを言う愛名。
 それ程に、追い詰められているとも言える。

「そうね、けれど、ゲームをしているかもしれないじゃない?」

 ゲームセンターへ行くだけではなく、家の中でのゲームさえも禁止しようって言うの……?愛名は心の中がどんどんと闇へと漬かっていくような感覚を覚える。
 
 しかし、ちずるはそう言う割には部屋からゲーム機を持って行ったりはしない。

 「有るけど触らない」という状況を作る事が、心を鍛える事にもなる。と言うもっともらしい理屈を並べていたが、実際は、ゲームをプレイしている決定的瞬間を掴む事で、さらに厳しい制約を与える口実にしたいのだ。

「……もうよろしいですか?勉強をしたいので」
「―――― まあいいわ。邪魔して悪かったわね」

 そうして、ちずるは部屋を出て行った。
 足音が遠ざかるのを確認して、愛名は大きく息を吐く。
 目の前のノートには、何の意味も無い数字がそれっぽく羅列されていた。

 コンコン……ココン。

 変則的なノックの音。
 それは、あらかじめ決めていた合図。

「香澄?いいわ、入って」

 ゆっくりとドアが開いて、香澄が入ってくる。

「大丈夫ですか?お嬢様……疲れが顔色に表れていますよ」
「それは仕方ないわよ……あ、そうだ、助かったわこれ、ありがとう」

 愛名は、机の引き出しに隠した携帯電話を取り出し、香澄に渡す。

「いえ、これぐらいしかお力になれませんから……けど酷いですよね!携帯まで取り上げるなんて!」 
「……そうね…でも、あなたが居てくれて良かったわ」

 もし、携帯電話を借りられなかったら、幸果さんに連絡を入れも事もできなくなるところだった。
 一応学校では菜射に会えるので簡単に事情の説明はしたが・・・・・・・直接自分の言葉で説明できない怖さに、ここ数日はずっと不安を抱き続けていた。
 二人とも、特に直接会える菜射は何か力を貸したいと言ってくれたが、下手に動くと余計に事態がこじれるかもしれないし、なによりも友達を家族の悪意に晒したくない。
 ゲーセンに通うきっかけとなったのが菜射だと知れたら、権力を使い学校をやめさせる事くらいはするかもしれない。
 ・・・・・そんな事だけは、絶対に避けなければ・・・!

「―――これから、どうするんですか?このままじゃあ……」
「わかってる、わかってるわ……いざとなったら………」

 愛名は、一つの覚悟を決めようとしていた。
 けれど、それは最後の手段だ。
 そうなる前に何とか……!
 最大限の努力はするが、それ以上はもう祈るしかなかった。
 人事を尽くして天命を待つ。
 言葉は知っていたが、本当に実感したのは、これが初めてだった。


 ある日の夜……コンコン…と、部屋で勉強をしていた愛名に、ドアのノック音が届いた。
 合図…とも違う。そもそも、今日は香澄は休日だった。
 また母が見回りに来たのかしら……そう思った愛名は、机の上のノートに視線を向けたまま「開いてます」と声をかける。
 最近は、見回りの時間も大体つかめたので、その時間には勉強をするようにしている。

 ……だが、今日はいつもと雰囲気が違った。

 雰囲気、と言うか空気だろうか。
 ともかく、何か異変を感じて愛名は振り返る。

「………お父様?」

 そこに居たのは、父、影二だった。

「どうかしたのですか?」

 影二が部屋を訪ねてくるなんて、愛名の記憶の中では殆ど無い……初めてと言えるかもしれない。
 一体何を言われるのか……緊張に体を硬くする愛名だが、影二はなかなか口を開かずに、ただ立ち尽くしている。

「………あの…?お父様?」

「……………………愛名」

 もう一度問いかけると、しばしの沈黙の後、影二は名前を呼んだ。

「…はい」

 そして、再び僅かな沈黙の後、ポツリと、言った。

「……お前は、どうしたい?」

 その、あまりに単純で真っ直ぐな質問に、愛名は一瞬ポカンとしたが、すぐに答えは浮かんだ。
 
 ここを出て、今すぐ幸果さん達に会いに行きたい…!
 そして、一緒に大会に出たい……!

「……………あの……私……」

 しかし、それを言葉に出す事が出来ない。
 それが更なるマイナスを生むのが怖いから。
 だから、何も言えない。

「――――――……」 

 何も言えずに黙り込んでしまう愛名。
 その様子をしばらく無言で見詰めていた影二だったが、独り言を呟くように、言葉を吐きだした。

「………欲しい物は、自分で勝ち取るしかないぞ…」

「……お父様?それは、どういう―――――」

 聞き返そうとした愛名に背を向けて、影二は部屋を出て行く。

 久々に近くで見た父の背中は、想像以上に大きくて、そこから何か……感情とも言葉ともつかない何かが伝わってきそうな気がしたが、今の愛名にはそれを上手く感じ取る事が出来なかった。

 けれど、少しだけ、愛名の心の中に、その何かが入り込んで、変化を促しているような、そんな感覚を覚えた。

 錯覚かもしれないけど、でも――――   
       

       第20回につづく。

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