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オリジナル小説『私イズム!』第20回。

第19回はこちら。


 第六章

[追い詰められて画面端] その3


 状況は改善されないまま、一週間が過ぎた。

 その間に予選は二つ終了。

 残るは、翌日と三日後、そして当日予選だけだ。

「もう限界よ…!計画を実行に移します!」
「本気ですか?お嬢様」

 腹を決めた愛名を心配するように、香澄が顔を覗き込む。

「もちろん本気よ……香澄、あなたに付いて来て、とは言えないけど…でも、できれば少しだけ協力を………」
「何言ってるんですか!」

 愛名の言葉を遮り、香澄は叫ぶ。

「私のお嬢様に対する忠誠心を甘く見ないで下さいね!それはもう、愛にも似た気持ちですとも!……だから、付いて行きますよ!お嬢様が止めても無駄なんですから!私が行きたいんですから!絶対行くんですから!」

 顔を真っ赤にしながらまくし立てる香澄の剣幕に少し押されながらも、愛名は「ありがとう」と、その一言を心の底から口にした。

「じゃあ、行くわよ……!」
「はい!お嬢様!」

 大脱走の、始まりだった。


・・・・・・・


「愛名!お前なんで!……って…どうした?その格好!」

 秘密基地を訪ねてきた愛名たちを出迎えた菜射の第一声は、そんな驚きの声だった。

 時刻は夜の八時。そこへ、黒い服にもかかわらず、ハッキリとわかるくらいに泥だらけに汚れた服で訪ねてくれば、そんな反応にもなろうと言う物だ。

「ちょっと、脱走を…」

 愛名はそう答えると同時に、小学生くらいの子供ならすっぽり入ってしまうほどの大きなカバンを前に出した。

「………しばらく、ベッドをお借りできますか?」


「きゃ~!愛名ちゃ~ん!久しぶり~!」

 連絡を受けた幸果がやってきて、風呂で泥と汗を落とし一息ついている愛名に抱きつく。

「はうっ…!ゆ、幸果さん…!」

 嬉しいやら恥ずかしいやらで顔を真っ赤にしながらも、抱擁を受け入れる愛名。

(はぁ…!久々の幸果さん…柔らかくてぽよぽよで良い匂いで…幸せです…!)
 
 あまりの心地良さに、愛名からも手を伸ばし、さらに強く抱き合おうとした瞬間…。

「はいはい、ちょっと離れてくださ~い」

 香澄が、間に割って入ってきて、二人を引き離した。

「あ~ん………愛名ちゃ~ん…」
「…あ、あのその、構わないのよ香澄。私もその……あの…」

 嬉しいし、とは言えない愛名だった。

「………ダメです、お嬢様は私がお守りするんですから!」

 ちょっとスネたような表情を見せる香澄。

「あらららら~?あなたも可愛い~!ん~~!」

 そんな香澄にも、幸果は抱きつく。

「ちょ……ちょっと!ダメです!離れてください!お嬢様以外は私に触れたらダメなんですから~!」
「………そうだったの?」

 愛名本人も知らなかった設定だ。

「そうなんです~!」

 必死に離れようとする香澄だが、幸果はどこ吹く風で、「リアルメイドさん~!」なんて言いながら頬擦りをしている。
 風呂上りに、律儀に代えのメイド服に着替えていたのが仇になったようだ。

 それからしばらく、興奮した幸果の暴走が続き、部屋には香澄の叫び声と、幸果の、例の「きゅふ、きゅふふふ!」と言う笑い声(どうやら興奮すると出るらしい)、そして、離れた位置から見ている菜射の大笑いが響いていた……。


「ごめんなさ~い……ちょっと、我を失ってたわ~」

 一段落付いて幸果が冷静になった時には、香澄は愛名の背中に隠れてがたがた震えていた。
 ……私を守るって言ってのに…?と愛名はちょっと思ったが、これはこれで可愛いくて面白いので良しとした。

 後で知る事になる話だが、幸果の家には百人を超える使用人が居るのだが、若い女性の使用人は一人も居ない。
 幸果がしばしば暴走するので、両親が禁止したのだ。
 かと言って、その使用人たちを首にするわけにもいかないので、離れの屋敷に集めて雇っている。
 その屋敷は影でメイドパラダイスと言われているとかいないとか……たまに幸果が忍び込んでいるとかいないとか……。

 閑話休題。

「それで、これからどうするの~?」

 幸果の問い掛けに、愛名は香澄と顔を見合わせて、意思を確認する。

 そしてお互いに頷いて……「ここへ、泊めていただけませんか?」その願いを口にした。

 この秘密基地は、普段は誰も住んでいないが、ガス、水道、電気はしっかりと通っていて、いつでも住める状態にはなっている。
 しかも、交通の便も悪くなく、住むには最適な場所だ。

「わたくしは構わないのだけれど~…」
「大丈夫なのか?警察とかが捜しに来たりしないだろうな…」 

 幸果の言葉尻を捕らえ、菜射がそう続けた。

「それは多分大丈夫です。ちゃんと書置きしてしましたし、綾塚家の跡取り娘が家出した、なんて理由で警察を呼ぶのは、対面を気にするあの人達は絶対にしません。……ただ、SPや警備員は捜索に借り出されてるかもしれませんけど……」

 あくまでも民間組織なので、マンションの中まで入り込んで探すような事は出来ないだろう。
 それに、この場所の事を知っている人間は居ない。
 見つかって二人に迷惑をかける可能性はほぼ無いと、希望を込めてそう思う。

「…う~ん……どうする?ゆっか姉」
「そうねぇ~………愛名ちゃん、本当に良いのね?こんな事して、後悔しない?」

「―――――はい、今動かない方が、絶対後悔します、だから……!」

 その目に宿るのは決して揺るがない強い決意。
 そこに潜む覚悟。
 ・・・・それを感じ取り、幸果も覚悟を決める。

「わかったわ~一緒に、大会がんばりましょ~!」

「……はい!ありがとうございます!」

 ほっと胸を撫で下ろす愛名と香澄。
 断られたら行き場所がなくて路頭に迷う所だった。
 今更 家には戻れないのだし……。

「うん!よし!そうと決まれば早速特訓だ!愛名!やるよ!」
「え?でも、もう時間が……帰らなくて大丈夫なんですか?」

 時計は夜の九時を指していた。

「大丈夫だって!なんだったら一緒に泊まろうか?」
「いえ、そんな…悪いですし…」

 と言いつつ、それも嬉しいかも……お友達との初めてのお泊りっ!なんて胸を弾ませる愛名だったが、

「…お、お構いなく!お嬢様には私が居れば大丈夫ですから」

 またしても香澄が話に割って入る。
 とは言え、先ほどの恐怖心からか、愛名の背中に隠れながら、だか。

「そうか?まあともかく、やろうぜ!」

 特に気にした様子も無く、ゲーム機の準備をする菜射。
 お泊りの話は無しですかぁ……と少し落胆した愛名だが、ゲームの準備が整うと、腕と心がうずうずと疼く。

 一応、触れる程度には隠れてゲームを部屋でやっていたが、いつ ちずるが入ってくるか判らない状態では集中できるはずもなく、なんとか腕が衰えないようにするのがやっとだった。

 久々の対人戦……!

 それは、愛名の心を躍らせるには充分すぎる要素だった。
 スティックコントローラーの前に座り、一つ深呼吸をする……。

「はい!いきましょう!」

『勝負、開始!』

 ――――――勝負は、やはり勝てなかったが、それでも愛名は自分の心が満たされていくのを感じていた――――――。

          第21回につづく。

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