« 『とある科学の超電磁砲(レールガン)』23話…! | トップページ | 『ハートキャッチプリキュア!』6話! »

オリジナル小説『私イズム!』第4回。

第3回はこちら。


第一章
[レバーを一瞬下に入れてからジャンプすると大ジャンプになるからそんな感じで飛べ] その3


『勝負……開始!』
 
 対戦が始まった!
 
 格闘ゲームにおいて、対戦開始の瞬間は「開幕」と呼ばれ、非常に重要な駆け引きの一つだ。
 最初の行動でまず仕掛け、上手く当てればいきなり優位に立てる。
 それは、連続技を狙うようなリターン重視の行動だったり、リターンは少なくても、まず相手に一発当てて、それを起点に攻め込んだりと、開幕の行動は、最初の1手にして、そのラウンドを決定付ける一手になる可能性もある。
 もちろんリスクを避けて、バックステップや後方ジャンプで距離をとる、と言う戦法も有効だが、それを読まれてダッシュで近付かれると、対応が後手に回って不利になる。
 対戦技術が極まって来れば来るほど、高度な駆け引きが行われる。

 それが、「開幕」なのだ。

 それを踏まえて、まず愛名のチココが出したのは[しゃがみ中攻撃]。
 リターンは小さいが、リーチと出の早さに優れていて、チココの開幕行動としては安定の一つだ。
 それに対して菜射の行動は―――――

「うそっ!」

 と思わず愛名は声を上げる。
 画面上では、陣梧の[レバー前方入れ武器攻撃(通称[前(まえ)武器])]が、チココの[しゃがみ中]を飛び越え、カウンターでヒットしていた!
 陣梧の[前武器]は、威力は高いが、ガードされると隙が大きく、技の発生もそれ程早くないので、わりと使い辛い技だと言われている。
 だが、少し飛び上がり太く変形した学ランズボンの足で蹴りつけるモーションは、その見た目の通り、低い位置の攻撃を避けられるという利点がある。
 つまりこの行動は、チココの安定行動であるはずの[しゃがみ中]に対して、大きなリターンを取れる技!
 言い方を変えれば、愛名の行動を読んでいたと言うこと!

『きゃああっ!』と画面からチココの叫びが響く!

 カウンターで『前武器』をくらったチココは、後方に大きく吹っ飛び、そのまま画面の端に激突して跳ね返る。

『うおりゃあ!』

 そこへ、陣梧の追撃が入る!
 ダッシュから、[立ち中]→[しゃがみ強]へと繋ぎ、高く浮いた相手に、[ジャンプ武器]→[脳天から落ちろ!(空中の相手を掴んで地面に叩きつけるコマンド投げ)]までの連続技で、チココの体力を早くも半分奪い取る!
 開幕から、たった五発。
 チココの防御力が低い事も有るが、この爆発力が陣梧の魅力!
 しかも、[脳天から落ちろ!]は受身不能なので、起き攻めの対処を誤ると、即敗北も有り得る。
 「起き攻め」とは、ダウン状態の相手が起き上がる瞬間に仕掛ける攻撃の事を言う。
 起き上がる側は、かなり動きが制限されるので、起き攻めを仕掛ける側が有利に攻められる。

「さあ、攻めるよ!」
「くっ…!」

 焦る愛名。しかしどこか冷静な自分が、とにかく相手の行動を見て対処!と指示を出す。
 ここでの菜射の選択は[貫けぇぇ!]。
 ガードを弾く性能が有るコマンド技で、ヒットしてもガードさせても、ある程度のダメージは確実に与えられる技だ。
 だが、その分 発生が遅く、しかも振りかぶっている間に攻撃を食らうとカウンターになって大ダメージを食らうので使い辛い技でも有る。
 しかし、「起き攻め」では無類の強さを発揮する。
 タイミングさえ完璧ならば、相手がダウンしている間に出した技が、相手の起き上がりに重なる!
 その場合の相手の対処としては、無敵時間の存在する技を持っている場合はそれを出せばカウンターを取れるので、ピンチはチャンスに変るのだが、今のチココにはそれが無い!
 その場合にはただ一つ…!

『あぶないですっ!』

 華麗に、バックステップでチココは攻撃を避ける!

「お、やるじゃん愛名!」

 無敵時間の有るバックステップを、起き上がるのと同時に出す事が、唯一の回避方法。
 だが、完璧なタイミングで出すのはなかなかに難しく、上級者でも完全に成功するとは言えないテクニックだ。
 ちなみに、起き上がりに行う行動を[リバーサル]と言い、バックステップを行うテクニックは、縮めて[リバサバクステ]と呼ばれる。

「えへへっ」

 愛名は嬉しそうに笑う。
 実際、愛名の[リバサバクステ]の成功率は50%にも満たない。
だから、今成功したことが嬉しくてたまらないのだ。
 とはいえ、喜んでばかりもいられない。成功して、[貫けぇぇ!]を避けたからには、ここからはきっちり反撃を決めなくては!
 空振りの隙に、[しゃがみ中]→[お掃除です]の連続技を入れ、ダウンを取る。
 [お掃除です]は、モップ掛けをしながら前方へと走る突進系のコマンド技で、ヒット時にはダウンを奪えるが、ダメージが低い。
 ダメージ重視なら、[ご、ごめんなさい]という、カップの紅茶をこぼしているのか投げているのか微妙な動きの飛び道具技を繋げた方が良いのだが、愛名はあえて起き攻めを選択する。
 
 まず、[お食事の用意です]を重ねる。
 この技は、テーブルクロスを大きく広げる技で、広げられたテーブルクロスは、手を離した後もひらひらと落下するので、テーブルクロスとチココ本体の同時攻撃が可能になる。
 ここで、立ちガード出来ない下段か、しゃがみガード出来ない中段で二択を仕掛ける! 
 どちらの選択肢も、ヒットすると[本体の攻撃]→[テーブルクロスヒット]となり、そこからさらに追撃が可能で、その追撃を[お掃除です]で締めれば、再度同じ起き攻めが可能になる、いわゆる[起き攻めループ]だ。
 性能的には弱いチココが、この戦法を使いこなす事で、何とか戦えるキャラになると言われている。
 昨日ゲームセンターで、あの男を倒したのも、この起き攻めだ。
 それを踏まえて、愛名は中段を仕掛ける!
 だが…菜射はそれを、[リバサバクステ]で避ける!

「あっ!」

 そこで愛名は思い出した。 
 あの男に対して菜射の言っていた言葉を。

「アタシだったら、バックステップから最大反撃叩き込んで楽勝だったね」

 確かに、そう言っていた。
 その言葉通り、菜射はすぐさま、テーブルクロスが当たる直前に、[捉えたぁ!]を出す。
 相手を掴んで、高く投げるこの技は、少し離れた相手にも有効な投げ技だ。
 [お食事の用意です]は、技を出したチココが攻撃を食らった瞬間に消える性質があるので、この行動は、まさに現状での「最大反撃」と言えた。
 高く投げられ、落ちてくるチココに陣梧が、先ほどと同じ連続技を叩き込む。
 ここで、もう一度起き攻め。

「ああっ……!」

 チココの残り体力は、二割弱、ここでの選択ミスは即敗北に繋がる。
 菜射は、今度は[貫けぇぇ!]を使ってくる様子が無い。
 と言う事は単純に、打撃ならば、下段か中段か、もしくはガード出来ない投げを狙ってくるのか…。

(……どうしよう…?!)

 一瞬の内に、脳裏に様々な思考が渦巻く愛名の視線が、「それ」に気付いた。

(ゲージが溜まってる!)

 画面下に表示されている、PM(パーソナル・マインド)ゲージが、一つ溜まっていた。
 攻撃を当てる、もしくは当てられる事で増加するPMゲージは、それを消費する事で[ゲージ技]と呼ばれる強力な技を出す事が出来る。
 ゲージは三段階有って、溜まるほどに強いゲージ技を出す事が出来る。つまり、各キャラに、レベル1~3までのゲージ技が三つ存在する仕様になっている。
 チココにも当然それは有り、レベル1のゲージ技には無敵時間が有る。

 つまり、これを出せばどの選択肢にも勝てる!

 愛名は、起き上がりに合わせて、1ゲージ技[あたしのメイドに何すんのよ!]を出す!
 画面端からチココがお仕えするお嬢様が、とび蹴りをしながら飛び出してくる技で、ヒットすると相手を吹き飛ばし、[大丈夫?チココ][お嬢様!]と言う、短い演出が入る。
 威力は低いが、通常状態での無敵技が無いチココにとっては、1ゲージで出せる無敵技と言うことで、非常に重宝する。
 なので、このタイミングでこの技を出すのは、チココ使いとしては非常に真っ当な判断。

 しかし……!

 ゲージ技全般の演出として、キャラのカットインが一瞬入り、その間ゲームの流れは止まるのだが……その時愛名の目に入ったのは、ガードを固める陣梧の姿だった。

「そんな…っ!」

 愛名が声を上げるも、もう遅い。
 菜射も気付いていたのだ、チココのゲージが溜まっていた事に!
 画面端からとび蹴りで出てきたお嬢様は蹴りをガードされると、体勢を崩して転んだ後、何事も無かったかのように、パッパッと服の汚れをはらって去っていく。
 そして、技の隙で硬直しているチココに、陣梧の連続技が叩き込まれる……。

『決着!』

 第一ラウンドは、愛名の完敗だった。

「ああ……」

 力無くうなだれる愛名に、菜射が声をかける。

「まだもう1ラウンドあるよ!勝負勝負!」

 心底楽しそうにそう言う菜射に、愛名も笑顔で答える。

「…はい!……次は負けません!」
 
 ……だが、第二ラウンドも菜射の完勝で、愛名はがっくりと肩を落としたのだった。

               第5回へつづく。

|

« 『とある科学の超電磁砲(レールガン)』23話…! | トップページ | 『ハートキャッチプリキュア!』6話! »