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オリジナル小説『私イズム!』第8回。

第7回はこちら。


 第三章
『あえてリスクの高い技を出す事が、勝利に繋がる事も有る』 その1
 

「お嬢様!愛名お嬢様!起きて下さい!」
「……ん…んん?」

 シャー、とカーテンが開く音。
 窓から入りこむ朝日が、まだ瞑られたままの瞳を刺激する。

「もう朝ですよ!」

 その声と光にせかされ、ゆっくりと目を開ける。

「ふみぃ……」

 けれど、まだまだ頭は覚醒しない。

「まったく……こんな本とゲームを出しっぱなしにして…他の使用人に見つかったらどうするつもりなんですか?」
「……え?」

 その瞬間、ガバッ!と体を起こす。
 その目に入ったものは、確かに出しっぱなしのゲーム機一式と、昨日借りたムック…。

「あ、ああっ!」

 慌ててベッドから降りて、ムックを抱きしめる。
 そして、周りを見回した後、少し考えて、学校のカバンへと入れる。

「ふぅ……」

 部屋には他の使用人が掃除に入る事も有るし、たぶん、ここが一番安全。
 そう思い、ようやく一安心した。

「あらら、ゲームよりも先に本を隠すなんて、よっぽど大切なモノなんですか?」

 後ろから声をかけられ、そちらに体を向ける。

「……うん、そうね。とっても大切」
「…なら、気をつけなきゃダメですよ!私以外の人間に見つかったら、確実にご家族に知られてしまいます!」
「そうね…ありがとう、香澄(かすみ)」

 愛名に感謝を向けられた相手、香澄は、綾塚家に仕えるメイドの一人だ。
 歳が近い事もあり、愛名が心を許せる相手であり……そして、秘密の共有者でもある。
 この家の中で香澄だけが、愛名の格ゲー好きを知っている唯一の人間だった。

「最初、あなたに見つかった時はどうしようかと思ったけれど……理解があって助かるわ」
「いえいえお嬢様、お気になさらず。ただ、私のツボにヒットしただけですから。…ああ…透夜(ゆきや)きゅん萌えです~!」

 言って、体をくねくねさせる香澄。
 …そう、愛名のゲームを目撃した香澄は、ゲームキャラの一人、透夜がいたく気に入った様子だった。
 透夜は、長髪でスラッとした美形男子。
 「PWM」の中でも、女性人気がダントツのキャラクターで、格ゲーをしない層でも、キャラだけは好き、と言う女子も多いと言う。
 香澄もまさにその中の一人で、格ゲーそのものには興味無いし、試しにプレイさせてみても、どうにも向いてない様子で、仲間が欲しかった愛名は少し落胆したものだ。

 けれど、これからは――――

「……ねえ、香澄。そのうち、紹介したい友達が居るの。楽しみにしててね?」

 その言葉に、一瞬「?」を浮かべた香澄だったが、「…はい!楽しみにしてます!」と元気良く返事をした。
 その時の愛名が、とても穏やかで楽しそうな笑顔だったから。


 一方愛名は、……ん?そういえば、香澄ってオタクさんじゃないのかしら…と、ここで初めて、自分の身近にオタクがいた事に気づいたのだった。


・・・・・・


「大会に出ましょう~」 
「……………………………はい?」

 菜射達との出会いから三日。
 愛名は連日秘密基地に通っていた。

 その間に分かったことは、菜射は、愛名と同じ二年生で十七歳。
 幸果は、二十歳の大学生で、この部屋は幸果の両親が経営している会社が運営しているマンションだと言うこと。
 それ以上のことは、二人も言わなかったし、愛名も聞かなかった。
 無理に聞いても意味はないし、付き合っているうちに自然に分かる事が積み重なっていけばそれで良いと思ったからだ。
 自分だって家のことをあれこれ聞かれたらあまり良い気がしない。
 こんな「秘密基地」を借りていることを考えても、二人にもいろいろと事情があるのだろう。
 そんな事よりも、今この空間にいられる幸せと、好きなゲームで盛り上がれる楽しさが、今の愛名には何よりも重要だった。
 そして今日も、何試合かした後の休憩時間。
 そんな状況で、幸果から出たのが、先ほどの言葉だった。

「だから~大会よ~」
「なんのですか?」
「もちろん「PWM」の~」
「どこかのお店の大会ですか?」
「ううん~全国大会」
「…誰がですか?」
「私と~菜射ちゃんと~愛名ちゃんで~チームを組んで、出ましょう~」
「……チーム?」
「うん~団体戦なの~」
「……そのメンバーに、私、ですか?」
「そうよ~」

 ……そこで、会話が止まる。
 そして、長い沈黙の後―――――

「えぇぇえぇぇええぇぇええぇぇぇええぇええぇええええ~~~~!!!無理!無理無理無理ですぅ~~~!!」

 愛名の、人生最大音量の叫びが出た。

「どうして~?」
「いやその、どうしてって!私なんてまだまだ弱いですし、そんな私が幸果さんとチームだなんて!足を引っ張ってしまいまするでする!」

 あまりの混乱に語尾がおかしくなる愛名だった。

「そんな事ないわよ~。それに、まだ大会までは一ヶ月有るから~、じっくり特訓すればまだまだ強くなるわよ~」

 どうやら、意見を取り下げるつもりは欠片も無い様子の幸果に、愛名はなおも抵抗する。

「でも、私チココしか使えないですし、大会でチココは勝率的にどうなんですか?と言いますか、無理だと思います~!」
「良いのよ~。団体戦なんだから、キャラには幅が有った方が~」
「…あう、あう、ああうう…」

 ことごとく迎撃されていく愛名の反対意見。
 そこへさらに幸果の追い討ち。

「それにね~私たち、一緒に出るメンバーが居なくて困ってたの~。そこへ愛名ちゃん登場!これはもう、運命だと思うの~助けると思って、お願いよ~」

 はしっ!と両手を掴んでくる幸果。

「ねっ?お願い~」

 さらには上目遣いで迫る!

「ひうっ…!きゅ~ん…!」
 
 か……可愛いっっ!!
 幸果さん…解っててやってるんじゃないですよね!
 そんな風に疑ってしまいたくなる程に、愛名の心はそれはもう高鳴りつつもぐらぐらと揺れていた。

(ど…どうしよう?!私にそんな大役が務まる訳が……!―――ん?けど……)

 ふと、一つの考えが思いつく。

「……団体戦って、総当り戦とかなんですか?」
「ううん、勝ち抜き戦~。先鋒、中堅、大将の三人で、先に三人倒した方が勝ちよ~」

 それなら……と愛名は考える。

(幸果さんは個人大会で優勝しているのだから、一番強いって事ですよね……それなら、団体戦と言っても、幸果さんが全勝すれば良いのであって、私は人数合わせってだけなのかも……?)

 それに、「困っている」と言うのなら助けてあげたい、というのも素直な気持ちとして有る。
 尊敬する幸果さんが助けを求めているのに、断ってしまうのも気が引けるし、なによりも、幸果さんが壇上で輝いている姿をもう一度見てみたいかも・・・!

 しかも今度は生で!隣で!

 その雄姿を想像するだけで、愛名の胸の中が幸福で満ちる。
 
「……うん」

 ……そして愛名は、決意した。

「…わかりました、その、私で宜しければ……」
「ほんと~?ありがとう~!」

 愛名が言葉を最後まで言い切る前に、幸果は満面の笑顔で愛名に抱きついた!

「ん~嬉しいわ~愛名ちゃん好き好き~!」

 さらには、ほっぺにちゅ、っとキス。

「きゃう~…!」

 幸せの絶頂に、顔を真っ赤にして惚ける愛名だったが、その決断がとんでもなく大変な事だったと気付くのは、もう少し先の話だ。

 
        第9回につづく。

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