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オリジナル小説『私イズム!』第9回。

第8回はこちら。


『あえてリスクの高い技を出す事が、勝利に繋がる事も有る』 その2


「そんな訳で……特訓開始だ!」

 翌日、休日の昼間、菜射に呼び出された愛名は、頭がくらくらするのを止められずに居た。

「……特訓は構いませんが……どうしてゲームセンターなんですか?」

 連れてこられた場所は、秘密基地にほど近い場所に有るゲームセンター。
 あの時のゲームセンターでは無いけれど、むしろ人の多さと言う意味ではこちらの方が上。
 外から見るだけでも、その人の波に脅威にも似た気持ちを感じている愛名は、逃げ出したい気持ちで一杯だった。

 ずっと女子高に通っている愛名は、男性が大勢居るという状況にとことん慣れていない。
 このプリクラも無い硬派なゲーセンの客層は、外から見ただけでも大半が男性。
 
 それに加え、この間の体験がトラウマになっていて、全身を恐怖が這いまわる。
 愛名の足が止まるのも仕方のない事だった。

「まあ落ち着けよ。大会に出るんだろ?アタシ達だけを相手に練習するよりも、色んな相手と戦った方が絶対に実力は付くんだよ。言ったろ?格ゲーは実戦経験が大事だって」
「……それはまあ…そうかもしれませんけど……」
「それに、少しは慣れないと。大会では全国から人が集まってくるんだぜ?」
「くむ……それも…確かにそうですけど…」

 言っていることが正しいのは理解出来る。
 けれど、理屈では無い部分がどうしても心と体をすくませる。

「良し!じゃあ行くぞ!」
「えあっ!ちょっと!菜射さん?」
 
 だが、菜射は無理矢理に愛名の手を引いて、真っ直ぐゲーセンの中へ。
 
 ドアが開き、中へ入ると同時に、耳を劈く大音量。
 そして、人、人、人の波。

「…………ひぅ…!」

 ビクッ…!と身体が硬直し、愛名は固まってしまう。

「・・・・愛名…」

 …その愛名の肩に、菜射が力強く、けれど優しく触れる。

「大丈夫だって!ここは、本当に格ゲーが好きな人間が集まってる場所だから、この前みたいな変なヤツは居ないよ、な?」
「ほ、本当ですか?」
「うん、ホントホント」

 それを聴いて少し安心する愛名。
 …愛名も本当は解っているのだ、このままではいけないと。
 それでも、心の奥に根付いた恐怖は簡単には消えてくれず、無意識に体と心をを強張らせる。
 それを感じ取ったのか、菜射は愛名の両手を、包み込むように握り…

「――――もしも、万が一何か有ったら、アタシが絶対に助けてやる。不安だって言うなら、ゲームをやってる時以外はずっと手を握っててやる。だから、アタシを信じろ」

 そう、力強く、けれど優しい笑顔で言った。

「菜射さん・・・・・」

 この言葉と、視線と、手から伝わる熱が、少しだけ愛名の硬くなった心を溶かす。

 こんなに背が小さいのに(と言うと本人は怒るけれど)、こんなにも頼もしい。
 それは、幸果とはまた違うけれど、とてもとても魅力的で、愛名の心を大きく揺さぶった。

「………はい…お願いします」

 愛名の少し赤面した表情に、笑顔が戻った。

 ―――思えば、菜射はいつも半ば強引に、自分を新しい場所へと導いてくれる。
 そして、それが悪い事だった記憶は無い。
 ……まあ、まだ出会って1週間くらいなんだけど……。
 それでも、愛名は感じていた。
 自分の中の、菜射への信頼の気持ちと、感謝を。
 だから今は、勇気を振り絞って、前へ。
 まだ手は離せないけれど、それでも…!


 二人が辿り着いたのは、店の奥の一番賑わっている一角。
 そこには、少し開けたスペースに、「PWM」の筐体が、ハの字を描くように二台置かれていて、その奥には大きなモニターが有り、ゲーム画面を映していた。
 そして、何よりも圧巻なのは、その周りを囲む人の列。
 皆真剣に、時には声を上げながら、モニターに熱い視線を向けていた。

「お、やってるな」
「……これ、なんですか?」

 明らかに、普通の対戦風景では無い状況を目の当たりにして混乱する愛名に、菜射は告げる。

「これは、ランバトだよ」

「ランバト…?」

「そ、ランキングバトル。縮めてランバト。この店は定期的に大会を開催して、その結果で店内ランキングを作ってるんだ。さらには、その大会の結果や、対戦動画をネットにアップしたりもして、全国的にも結構注目を集めてるのさ」
「へ~……そんなの有るんですね…」
「うん、最近ではわりとやってる店も多いよ、レベルの高い動画は注目されるし、注目されれば遠くから遠征の客もやって来るし、店内での競争にも力が入って、さらに店が盛り上がる。もちろん、単純に労力がかかるし、たまにはトラブルなんかもあるから良い事ばっかりって訳でもないけどね」

 語られる、今までに知らなかった世界の話。
 それは愛名に、新鮮な驚きと感嘆を与えた。

(……なんだか少し…面白そうかも…)

 愛名の目の色が僅かに変化し、菜射の手を握る手にも力が入る。
 それを確認して、菜射は自分の狙いが的中した事を理解し、こっそりと笑顔を作った。


「そう言えば、菜射さんは出ないんですか?」

 しばらく対戦を観戦していた愛名だったが、試合の合間にそう菜射に尋ねた。

「ああ、今日はね」
「どうしてですか?もしかして、私に気を使って……」
「いやいや、違う違う、今日は、エントリーの時間が早かったからさ……寝坊して…間に合わず…」

 言いながら、どんどん落ち込んでいく菜射。

「あう…あの、ごめんなさい…」
「……気にすんなって、悪いのはアタシだし。それに、別に毎回出なきゃならないって訳でもないしね」
「……菜射さんは、ランキング何位なんですか?」
「え~と……まあ大体、十位辺りをうろうろしてる感じかなぁ……」

 愛名は、壁にかかっていた今日のランバト対戦表を見る。
 今日だけでも、五十六人が参加していた。

「……十位って、結構凄いじゃありませんか?」
「ん?まあな、まあな!あははは!」

 褒められて、嬉しそうに笑う菜射。
 その照れているような恥ずかしいような、それでいて誇らしいような笑顔を見て、

 …ふふっ…なんだか……ちょっと可愛いっ!

 なんて思ってしまう愛名だった。


          第10回につづく。

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