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オリジナル小説『私イズム!』第23回。

第22回はこちら。


第七章

[1ドットでも体力が残っていれば、逆転は可能] その1


 そのビルは、とにかく高かった。
 おそらく最上階にはラスボスが居て、負けると同時にガラス窓を突き破るのだろう。
 そして、主人公が一度は手を握り引き上げようとするが、ボスはその手を払いのけ、豪快に笑いながら落ちて行くのだ。
 そんな妄想が自然と沸いてくるような、超高層ビル。
 オフィスビルが立ち並ぶこの一画の中でも、頭二つ抜き出ている。
 そして、このビル全てが、一つの会社の様々な部署だけで埋まっていた。
 つまり、その会社の自社ビルだ。

 それだけでも、この会社の成功度合が想像できると言うものだろう。
 そんなビルの入り口に愛名は足を踏み入れる。

 中はまず広いロビーになっていて、中央に受付が有る。
 いかにも一流企業です、と言う高級感の漂う内装と、社員の佇まい。
 愛名はその雰囲気が好きではなかったが、今はそんなもの気にもならない。
 真っ直ぐに受付へと歩を進め、受付嬢が何かを言う前に、言葉を発する。

「母に会いたいのですが、取り次いで頂けますか?」
「お母様……ですか?」

 受付嬢は、戸惑った表情を見せる。

「そう、母です」
「………その、失礼ですが、お名前を伺っても…」

 と、至極真っ当な質問をしようとしたその瞬間………少し離れた場所に居たもう一人の受付嬢と、受付脇に居た警備員が慌てて愛名に駆け寄ってきた。

「なに言ってるのあなた!」

 もう一人の受付嬢が、最初の受付嬢を怒鳴りつける。

「申し訳ございません!この子はまだ新人ですので、どうかご容赦を!」

 警備員は、腰を九十度に曲げて謝罪する。

「いいえ、構いません。それよりも、母は居ますか?」
「はい!どうぞこちらへ!」

 警備員に案内されて、エレベーターへと乗り込む愛名。
 その後姿を見ながら、最初の受付嬢は眉をひそめる。

「……なんなんですか?誰です?あの子」
「バカ!ちゃんと覚えときなさい!あの子は、次期社長よ!」
「……次期社長………ってことはまさか……!」
「そう、綾塚一族のご令嬢、愛名様よ!」


「こちらでお待ちください」

 警備員に案内された部屋は応接室だった。

「直ぐにお知らせしてまいります」と言い残して警備員は部屋を出て行く。

 愛名はとりあえずソファに腰掛け、待つ。

「………相変わらず、なのね……」

 受付や、警備員の様子を思い出し、愛名は気持ちが重くなるのを感じた。

 明らかに、自分を恐れていた。

 それはつまり、自分の両親や祖父母に対する恐怖の表れ。

 この会社は、愛名の祖父が作り上げた会社で、今や世界八カ国に支店をもつ大企業だ。
 その、あからさまなまでの一族経営は有名で、社長を退いた祖父は今でも会長として強い影響力を持ち、祖母は役員、父が社長、母が副社長と、権力を身内で固めている。
 だが、利益が上がっているという事実がある以上、誰もそれに異論を唱えられないのが現状だ。
 しかし、あまりにも強い権力は、自然と恐怖を生む。
 今や、会社内で綾塚一族に逆らう物は居ない。
 そういう人間は、ことごとく祖父に排除されて来たから。

 完全なる恐怖政治。

 しかもそれを意図的に作っている。

 それが、綾塚のやり方なのだ。
 愛名は、そんな家族が大嫌いだった。
 そのやり方も、それを自分にも強制しようとすることも、耐えられない。
 ・・・・・だが、だからと言って自分に何が出来るというのか・・・・・それは、もうずっとループし続けてきた想いだった。

 コンコン、とノックの音が響き、愛名は思考を現実へと引き戻す。
 入って来たのは……先ほどの警備員だった。

「申し訳ありません愛名様、副社長は現在会議中でして、お会いにならないと……」
「……待ってなどいられません、どこの会議室ですか?」
「いえ、それは……お知らせするわけには……」 

 困った表情を見せる警備員に対して愛名は、罪悪感を抱いたが、それでも今は止まれない。

「教えなさ……教えて下さい!」

 一瞬の迷い。
 なりふり構わずに権力を振りかざし、無理矢理聞き出そうかと、そんな思いが鎌首をもたげたが、それを押し殺す。
 私は、あの人たちとは違う………!

「いえ、それは………出来ません。申し訳ありません」

 しかし、警備員は口を割らない。
 ちずるが、仕事を中断されるのが何より嫌いだと知っているのだろう。
 もしかしたら今も、知らせに行った時に何か言われたのかもしれない。
 それでも、愛名は絶対に止まれない。

「お願いします!……どうか!教えて下さい!」

 愛名は、膝を床に付け、頭を限界まで下げた。
 つまり、土下座。
 愛名にとって人生初の土下座であったが、そこには恥じる気持ちは欠片も無い。
 自分のプライドなど、いくらでも捨てる覚悟はもうここへ来る前にしてきたのだから。

「いえ!そんな!そんな…お止めください!」

 警備員は慌てて止めに入る。
 綾塚家の人間が土下座。
 それは、この会社に勤めている人間にとって、想像すら出来ない事だ。
 だが今、それが目の前で起こっている。

「お願いします!教えて下さい!大事な事なんです!」

 こんな姿を家族が見たら、きっと最大限に罵られる事だろう。
 綾塚として、絶対に他人に弱みを見せるな。
 子供の頃から、脳に直接そう文字を彫られる程に、聞かされた言葉だ。
 けれど、そんな事はもうどうでもいい。

 今はただ――――――

「………わかりました…!頭をお上げ下さい。副社長は、二十七階のC会議室です」

 困惑したままの警備員の言葉に、愛名は顔を上げる。

「ありがとうございます!」

 深く一礼し、急いで部屋を駆け出す。
 その後姿を見ながら、警備員は呟く。

「ありがとう……か。あの子が会社を継いだら、この会社は変わるかもしれないな…」

 愛名は、急いでエレベーターに飛び乗り、二十七階のボタンを押す。
 移動の時間が一秒でも惜しい。
 けれど、待つしかない。
 その間、愛名は思い出していた。
 つい一時間前に聞いた、衝撃の事実を――――――


…………


「「………ええぇぇええーーーーーーーー!!!」」

 聴いた愛名と菜射の驚きの声がシンクロした。 

「そ、そんな!中止って!どうしてですか?」
「そうだよ!大会三日前だぜ?急にそんな事って有るかよ!」

 詳しい話を聞きだそうと、幸果に詰め寄る。

「その……『闘演舞』を主催している会社の役員さんと私の両親が知り合いで、昨日家に来たの。そこで、私が『闘演舞』の話を聴いたら……その、大きな取引先から圧力がかかって、下手すると中止に追い込まれるかもって……今は何とか抵抗してるけど、どうなるかわからないみたい…」

「なんだよそれ!どう言う事だよ!」

「どこなんですか?!その取引先って!」

「…………………」

 幸果は言葉を詰まらせる。
 その仕種に、愛名は何かを感じ取り、一つの考えが浮かぶ。

「………まさか…!」

「……そう、言いにくいけど、愛名ちゃん、あなたの家の会社よ」

「……………………そんな……!」

 愛名は、あまりの衝撃によろよろと後ろへ下がり、置いてあったソファーにぶつかり、体勢を崩す。
 とっさに菜射が手を伸ばし体を支えるが、愛名はそのまま床へ座り込む。

「どうして…?私、大会の事は一言も言わなかったのに……!」

 何故、知られてしまったのか………。
 と、その時…ガシャン!と大きな音が耳を衝いた。
 香澄が、来客用にと運んできたコップとお菓子を、お盆ごと落としたのだ。

「………香澄?」

 ――――なにか、様子がおかしい。

 その表情は青ざめていて、体もカタカタと震えている。

「……す…すいませんお嬢様!幸果様!菜射様!全て、私の責任です!」

 弾ける様にそう叫んだかと思うと、床に頭をこすり付けるような深い土下座を見せる香澄。

「まさか…そうなの?香澄?……あなたが、話したの?」

 信じられない、信じたくない。
 けれど、確認せずには居られない。

 その愛名の言葉に香澄は………「はい…!」と声を絞り出した。

「おまえ…!」

 叫びながら菜射が飛び掛ろうとするが、それより一瞬早く愛名が飛び出し、香澄の頬をおもいきり叩いた。

 愛名は今、初めて人を殴った。

 そうしなければ、気がすまなかった。

 感情を抑えられなかった。

「……どうして!どうしてよ!あなたの事信頼してたのに!どうして裏切ったの?!……最初から、私の事を報告するつもりで付いて来たのね!」

「違います!それは違います!お願いします!話を聞いて下さい!」

「うるさいっ!もうあなたなんか………!」

「愛名ちゃん!」

 もう一度、香澄を殴ろうと振り下ろした愛名の手は……香澄の前に割って入った幸果の頬を赤く染めた……!

「………っ!幸果さん…!どうして!」

 急速に、興奮が冷めていく。

「落ち着いて、よく見て」

 そう促されて香澄を見ると……泣いていた。
 とてもとても悲しそうに、悔しそうに、謝るように、ボロボロと泣いていた。

「今、この子を殴ってはいけないわ。きっと後で傷付くのはあなたの心の方よ。だから、ね?」

 愛名の頭の中を様々な言葉が駆け巡ったが……ただ一言、「…はい」と呟きその手を収めた。

 部屋には、香澄の子供のような泣き声だけが響いていた…。

    
         第24回につづく。

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