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オリジナル小説『私イズム!』第24回。

第23回はこちら。


第七章

[1ドットでも体力が残っていれば、逆転は可能] その2


「……おととい、買い物に出かけた時に綾塚家の使用人に見つかって、無理矢理ちずる様の元へと連れて行かれたんです」

 しばらく泣いて落ち着いた後、香澄は少しずつ語り始めた。

「凄く問い詰められて……私、絶対に言わない!って思ってんですけど……」

 そこで言葉を詰まらせる香澄。
 けれど、無理に先を促すようなことはせずに、続く言葉を待つ。

「ちずる様はちずる様なりに、母として娘の事を心配していて、だから、何でもいいから聞かせて欲しい、って言われたんです」

 いつもの手だ、と愛名は内心思った。

 常に厳しい母が、たまに凄く優しくなる事があって、それが子供の頃の愛名にはとても嬉しかった。だから、母を嫌いになれなかった。

 けれど、それはただの計算だ、とある日気付いた。

 たまに「優しいフリ」をしてみせる、と言う人心掌握術に過ぎず、そこに本当の優しさ、母の愛は無かったのだ。
 それを知った時の悲しさと切なさ、そして絶望的な気持ちは、今でも愛名の心に影を落としている。

 同時に、母娘の関係すら、計算でしか作れない母が情けなくて不憫だとも思った。

 そんな想いを抱えたままで母との関係が改善出来る筈も無いのだが、どうすれば良いのかわからないまま、もう何年も経ってしまっているのが現状だった。

 だが、何も知らない香澄がそれに騙されてしまうのは、仕方の無い事だと言えるのかもしれない。

「だから私、考えたんです………本当に愛名様の事を愛しているのなら、ちゃんと話せばわかってもらえるんじゃないか…って…」
「それで、大会の事を~?」

「………はい、私はここへ来て、愛名様が本当に一生懸命、自分の為に、友達の為に努力しているのかを知りました。皆さんにとって、その大会がどれだけ大切で、強い想いを向ける価値の有る物なのかを知りました。なにより、愛名様がこんなにも一つの事に打ち込んで、夢中で……楽しそうで……!」

 再び、香澄の瞳から涙がこぼれ始める。
 その瞬間、愛名は、香澄の自分に対する想いを少しでも疑った自分を恥じた。
 その涙が、あまりにも美しくて暖かかったから……。

「本当に娘の事を思うのなら、応援して欲しい。お嬢様が、自分の娘が、家を飛び出してまでやろうとしている事を、認めてあげて欲しい――――――そう、思って、話したんです……なのに………!こんな事になるなんて………!」

 悔しさと後悔が、香澄の涙をさらに溢れさせる。

「……ごめんなさい…!私の勝手な思い込みで、皆様の大事な物を奪ってしまいました……!どんなに謝っても謝りきれません……!…償いにはならないと思いますが、どうか私にお暇を出して下さい。もう私に、お嬢様の側に居る資格は――――」

 ふわっ……と、優しく、愛名は香澄を抱きしめる。

「……お嬢様?」
「…もう、バカね香澄。側に居て仕えて欲しい……いいえ、友達として、一緒に居て欲しいのは、あの家ではあなただけなのよ。なのに、そんな事するもんですか」

 抱きしめながら、そっと頭を撫でる。

「………でも、でも私は…!」
「いいのよ、私の事を想ってしてくれたのでしょう?……なのに…ごめんなさい、痛かった?」

 少し体を離し、赤く腫れてしまっている香澄の頬に手を添える。

「話も聴かずに殴ったりして……私こそ、あなたの主人失格ね。……だから、あなたが辞めたいと言うなら――――」

「そんな!私はずっとお嬢様の側に…!」

「じゃあ、問題無いじゃない?私はあなたに側に居て欲しい、あなたも、側に居たいと想ってくれている………こんな素敵な両想い、手放すなんて考えられないじゃない」

 言って、愛名は笑顔を向ける。

「お嬢様………!ありがとうございます……!」

 再び香澄は涙を流す。
 先ほどとは違う、歓喜の涙を。

「…………けど、大会はどうするのですか?このままでは……」

「―――――大丈夫。私が、自分で決着を付けます…ちゃんと、自分の手で―――」


・・・・・・


 バン!と大きな音を立て、勢い良く会議室の扉が開かれる。
 部屋の中には、スーツに身を包んだ、いかにも高い役職に就いていそうな人々が、十人程度、楕円形の会議机に付いていた。
 年齢は三十代から、定年間近と想われる老人まで様々だが、誰もが驚いた表情で、唐突に入ってきた闖入者を、愛名を見つめていた。

 だが、一人だけ、予想していたかのように動じない人物が居た。
 綾塚ちずる、その人である。
 愛名は真っ直ぐにその前へと向かい、辿り着くと同時に会議机をバン!と叩く。

「…………くだらない圧力を、今すぐにやめて」

 人生で最高に怒りを込めた声を、母に向ける愛名。

「………会議中に入ってくるなんてどういうつもり?そこまで恥知らずになったのかしら?」

 しかし、涼しい顔でそう言い返すちずる。
 それがさらに愛名の怒りを煽る。

「…!恥なんて、幾らでも捨てます!今の私には、恥なんてなんでもありません!友達を悲しませる事に比べればそんなもの!」

 突然の言い争いに、会議室内は騒然とし始める。
 その様子に、ちずるはあからさまに表情を険しくする。

「あなたが恥を捨てるのはあなたの勝手だけれど、私を巻き込むのはお止めなさい」

 常に他人の目を気にしているちずるからすれば、今の状況は耐え難いようだ。

「巻き込む?巻き込むですって?それはこっちのセリフです!私一人の為に、皆を巻き込むのは止めて!幸果さんや菜射さん……ううん、全国のプレイヤー達が、大会の為にどれだけ努力しているか知ってるの?それを………!」

 はぁ……と一つため息を吐き、ちずるは会議室全体に届くように声を響かせる。

「会議は中断するわ!申し訳ないけれど、二人にしてくれるかしら」

 それを聴いて、戸惑っていた社員達はテキパキと部屋を出る。
 元々、居辛さを感じていたのだろう、その行動は早かった。
 バタン……と最後の一人が外からドアを閉めると、部屋には愛名とちずるだけが残る。

「まったく……何をムキになってるのかしら、たかがゲームで」
「……確かに、たかがゲームです。けど、その「たかが」がもたらしてくれる、とっても大切な物を私は知りました。それは、言葉では言い表せないくらいに凄く凄く大事で尊い物よ。だから、私はそれを奪う行為を許さない、あなたを、許さない!」

 かつて無い娘の迫力に、少し気圧されるちずる。
 ……だが、ちずるも会社の副社長という地位で、数々の困難や理不尽と戦ってきた。
 簡単に折れるような心は持っていない。

「そう、別に許してもらおうとは思ってないわ、けれど、大会を中止にするのは考え直しても良いわよ?」

「………条件は?」

 素直に喜ぶほど、母との付き合いは短くない。

「……簡単よ、あなたが家に戻って、二度とゲームをしない事。それだけよ」

「そんな条件、呑むと思ってるの?」

「別に呑まなくても良いわよ?その代わり、大会は中止になるでしょうけど」

「……………っ!」

 もし、言う事を聞けば、きっと大会は開催されるだろう。
 そうすれば、全国の格ゲープレイヤーに悲しい思いをさせなくても済む。

 けど、その場合は幸果たちは大会には出られない。
 一度大会出場の権利を得たプレイヤーは、新たに予選に出場する事は出来ないというルールが有るからだ。

 ………きっと、幸果さん達に相談したら、自分たちはいいから、って言うに決まってる。

 自分たちよりも、大会開催を優先する……そういう人たちなんだ。

 だからこそ、出場させてあげたい。
 でも、でも……………!

「―――――どうしてなの?どうしてそこまでするの!?」

 強い憤りが、言葉となって溢れ出る。

「こんなことまでしなければならない理由はなんなの?」

「そんなの決まってるわ、あなたが、綾塚だからよ」 

「………!そんなの、理由になってない!」

「それはあなたの理屈だわ、私の考えとは違う」

 そんな………!
 綾塚だから?
 この家に生まれた、それだけの理由で、好きな事に打ち込むことも許されないの?

 ――――――だったら――――――

「……そう、じゃあ私………綾塚をやめます」

 自然と、そう口にしていた。

「何を言ってるの?そんな事出来る訳無いじゃない」

 愛名の言葉を鼻で笑う ちずる。
 だが、愛名は本気だった。

「出来るわ。「会社を継がない」そう宣言するだけでいいんです。結局家族全員が、一族経営の存続を望んでいるのでしょう?だったら、私が会社を継がなければ、それで終わりです」

「………本気なの?黙っていればこの会社を継げるのよ?何十億、何百億のお金をあなたの自由に出来るのよ?それを捨てるというの?」

「私は元々、そんなもの望んでいません。だから、いくらでも捨てられます……では、そう言う事で」
 
 背を向けて、部屋を出て行こうとする愛名。

「ちょっと待ちなさい!どこへ行くの?」

「…会社中へ、綾塚 愛名は会社を継がない、そう宣言して回ります」

「やめなさい!そんな事したらどうなるかわかってるの?」

「……わからない…けれど、一つだけ確実なのは、あなた達にとって私の存在が無価値になるって事。それだけで充分です」

 まだ後ろで何か騒いでいるちずるを無視して、ドアへと手をかける。

 なんだ、こんな簡単なことだったんだ……。

 愛名は、今まで背負っていた重い荷物を下ろしたような、すっきりとした気持ちで、ドアを――――――

 カチャ…。

 ――――愛名が開ける前に、ドアが開いた。

「………愚かだな」

 部屋へ入っての第一声をそう呟いたのは、愛名の父、影二だった。


          第25回へつづく。

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