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オリジナル小説『私イズム!』第25回。

第24回はこちら。


第七章

[1ドットでも体力が残っていれば、逆転は可能] その3


「………どうしてここへ?」

「社内でちょっとした噂になっていたぞ……困った事をしてくれたものだ」

 愛名、ちずる、両方へと厳しい視線を向ける影二。

 愛名にとって父は、とにかく厳格な人だった。
 とにかく仕事一筋で、自分にも他人にもとことん厳しい。
 愛名の記憶の中では、仕事をしている以外の姿を見る事の方が少ない程だ。

 余計な事は殆ど話さず、ただそこに存在しているだけで何かを伝えようとする。

 そんな父親だった。

「悪いが、話は途中から聞かせてもらった。………どう収束するかと期待していたが……期待ハズレも甚だしいぞ、我が娘よ」

 全ての会議室は、社長室とモニターで繋がっている。
 同時に開催されるいくつもの会議全てに社長が参加できるようにと作られたシステムだ。
 それを利用して、二人のやりとりを聞いていたのだろう。

「まさかあのような答えだとは……心底愚か、愚かの極みだ」

 影二の表情は、怒りと悲しみと失望と……それらが入り混じったような印象を受けた。

「……そんな事……じゃあ、どうすれば正しかったんですか?母の提案を呑むべきだったって言うんですか?それが「愚か」じゃない答えなんですか?」

 愛名の中に、怒りが湧き出してくる。
 結局そうなんだ…親の言うとおりに生きろって、それが賢いって言いたいんだ…と。

「違う」

「………え?」

 だが、返ってきたのは意外な答え。

「正解が二つしかない、そう思っている時点で、おまえは愚かだというのだ」

 まるで謎かけのような言葉に、愛名は混乱する。

「………どう言う事ですか?いったい何を…?」
「………いいか、良く聴け」

 ため息を吐いてから、一瞬間を作り、影二は言葉を続けた。

「何かを得るために何かを犠牲にする―――――そんなものは、二流のやる事だ!」

 その強い言葉と口調に愛名は一歩後ろに下がる。

「おまえも綾塚なら、私の娘なら!全てを手に入れて見せろ!地位も、名誉も、金も、友人も、夢も、目標も、信頼も、愛情も、勝利も!全てだ!この世で勝ち取れる全てをその手にしろ!その志を魂の根幹に持って生きろ!相手に提示された選択肢などクソくらえだ!人生は二者択一などではない!努力と知略と自分自身の全てで、望む物は何でも手に入れろ!」

「………お父様…」

 初めて聴く、父の強い声。

 自分に、何かを教えてくれようとする、言葉。

 愛名は初めて、父が自分を見てくれたような、不思議な嬉しさを感じていた。

「………お前もだ!ちずる!」

 影二の怒りは、ちずるにも向けられる。

「ゲーム大会を中止にしろと圧力をかけたそうだな……」

 普段では見られない影二の激昂に、ちずるもたじろぐ。

「……そ、それがどうしたというの?何も問題は無いでしょう?」

「馬鹿者がっ!確かに我が社はあの会社に多大な出資をしている、だがな、あの会社はそれによって実績を挙げ、結果を出し、利益を還元している。そんな会社との友好な関係をお前の感情的な理由で潰そうというのか!」

「……けど、あの会社との取引額なんて、うちにとっては微々たる物で、無くなった所で…」

「お前は、私が可能性の無い会社に出資をするとでも思っているのか?あの会社が、十年後、二十年後、今の何十倍の利益を上げる会社となる可能性が無いとでも言うのか?そうなった時に、良好な関係を続けてれば良かった、などと愚かな後悔をしたいのか!私は、全ての可能性を手放さない。手放してから大切だと気付く……そんなものは二流だと知っているからだ!」

 影二の言葉には反論を許さない力があった。

 なによりも、その言葉の正しさには、反論など出来るハズも無かった。

 ちずるは、なにか言葉を捜しているが、何も見つからずに黙り込む。

「愛名、それはお前にも言えることだ」

 そして、再び影二は愛名に向き直る。
 愛名は、自然と背筋が伸びる。

「お前は戦っているつもりかもしれんが、それはただの逃げだ。綾塚を継ぐという重圧から、家族の期待からの逃げ、そして、他の喜びを知ってしまい、そちらを優先したい……そんな気持ちの集合体が、先ほどの答えだ」

 愛名も何か言い返そうとするが、言葉は出ない。

 その通りだと、気付いてしまったから。

 自分は逃げたかったんだと、そう思っていたんだと………。

「……お前は、綾塚と言う物を生まれ持った。それは確かにお前に不自由を強いただろう。だが同時に、権利も与えているのだ。普通の人間なら、一生かかっても手に入れられないほどの莫大な金銭と、羨望を受ける地位を。お前は今、それを手放しても構わないと思っているかもしれない、だが将来、もう一度手にしたいと思ったところで、もう二度と手には入らない…………ならば、抱え続けろ!痛みも悲しみも辛さも、付随する全てと共に抱え続けろ!そして、様々な経験を積み、人生を知り、その上で要らないと判断したならば………その時は、自分の意思で捨てればいい」

「……!あなた!」

 自分の……意志で―――

「…………捨てて…いいんですか?」

「それがお前の意思なら、私が許す」

 ――――――その瞬間、愛名の両の瞳からボロボロと涙がこぼれ始める。 

 心の中の、涙を溜めてあった場所が瓦解したかのように、とめどなく溢れる。

 ――――――認められた――――――!

 初めて、「綾塚の娘」ではなく、一人の「綾塚 愛名」としての意思を、認めてもらえた。

 それが、こんなにも嬉しいなんて………!

 ああそうだったんだ………私は、「私」が欲しかったんだ…。

 「綾塚の娘」ではなく、ただの「私」を必要としてくれる人………その存在が、「私」を作ってくれる………。
 だから、幸果さんたちを、こんなにも強く愛おしく感じるんだ――――――。

 そんな愛名を横目に、ちずるが影二に詰め寄る。

「どういうつもり?そんな事、お爺様達が許すと思っているの?」
「父さん達は関係無い。父さん達の顔色を伺って、娘を不幸にするなど、それこそ不幸な選択だと思わんか?」
「それは……!」
「父さん達が何を言おうと、今この会社を支えているのは間違いなく私とお前だ。気に入らないから追い出すなんて事、出来るはずが無い。そうだろ?もっと自信を持て。お前が居なくては、この会社はまわらんぞ?」
「………そうね、そうよね!……わかったわ、あなたに任せます」

 ちずるは、肩の荷が下りたように、会議室の椅子に深く腰掛けた。

 それを確認して影二が、まだすんすんと鼻を鳴らしている愛名に近寄り、小声で囁く。

「なあ、愛名。私は、全てを手に入れろ、と言ったが、手に入れられなかったものが有る」
「………なんですか?」
「両親との、良好な関係さ……」

 それは、初めて見る父の寂しそうな笑顔。

「偉そうな事を言ったが、二者択一で、私は選んだ……ちずるを」

「………お母様を?」

「そうだ。両親はちずるを嫌っていた。けど私は………どうしても、ちずるに側に居て欲しかったんだ………だから愛名、お前には、両親との良好な関係をも手に入れる、完璧な存在になってくれ。………まあつまり、母さんを嫌わないでやってくれって事だ」

 そう言って、影二は笑顔を見せた。
 とても優しくて、暖かい、そして、どこかお茶目な笑顔…。

 ああ……今日は初めてのお父様がいっぱいだ。

 愛名は、笑顔を返す。

 そして同時に、今まで父と、家と真っ直ぐ向かい合ってこなかった自分を恥じた。

 結局自分は、全てを諦めて、責任を押し付けて、自ら前を向こうとしていなかった。

 そのくせ、恨み言ばかり言って、自分は悪くないと思い込もうとしていた……。

 そんな事で、未来が開けるハズも無かったのに……。

 愛名は、自分の人間としての未熟さを知り、同時に少し成長をしたような、そんな気がしていた。

 
       第26回へつづく。

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