オリジナル小説『私イズム!』第26回。
八章
[ラスボスは、卑怯なくらい強いのが丁度良い] その1
「第九回『闘演舞』………「PWM」全国大会…決勝戦を開始します!」
照明の落とされた薄暗い会場に、司会の叫びが響く!
「「「「「うぉおぉおぉおぉぉぉおぉーーーーーーーー!!!!」」」」」
観客の熱気も最高潮に跳ね上がり、会場を揺らす程の大歓声!
「全国から、熱狂!熾烈!過酷な予選を勝ち抜き、運と実力と努力!その全てを駆使して勝ち上がってきた、選ばれし精鋭達は今!最後の二チームにまで絞られた!……それは、こいつらだぁぁぁぁーーーーー!!!」
バッ!と会場の一角にスポットライトが当てられる。
そこは、会場の奥へと繋がる通路の入り口。
「まず最初に姿を見せるのは……!『チーム圧殺』――――――――!!」
紹介と同時に入場してきたのは、風斬 燕率いる「チーム圧殺」。
その名の通り、圧倒的な力で対戦相手を押しつぶしての決勝進出だ。
「そしてもう1チームは……!「PWM」全国大会個人戦優勝の幸谷 幸果率いる、「キューティープリティービューティーズ」―――!」
呼び込まれ入場するのは、幸果、菜射、そして愛名。
愛名は緊張も有って負け続けていたが、幸果と菜射の快進撃で決勝まで上がってきた。
ちなみに「キューティープリティービューティーズ」と言うチーム名は幸果が独断で決めた。
菜射は最後の最後まで抵抗し、愛名でさえも「その名前はちょっと……」と引き気味だったが、幸果の「もうこの名前でエントリーしちゃった~!」と言う言葉に、引き返せない事を知り、一時期テンションが凄まじく下がったりもした。
菜射は入場の最中にも、「その名前を叫ぶなぁー!」と顔を真っ赤にしていたが、その声は歓声にかき消された。
そして、メインステージに役者が揃う。
照明が戻され、周囲は明るさを取り戻す。
メインステージの上には、筐体がハの字型に二台。
そして大きなモニター。
ゲーセンのランバトと基本的には同じだが、モニターの大きさが段違いだった。
なにせ、千人収容可能な会場の端々にまで映像を届けなければならないのだから。
しかし、実際にプレイヤーが見るのは普段と同じ筐体。
競われるのは、純粋に実力のみだ。
「さてそれでは、出場プレイヤーにインタビューをしてみたいと思います!」
司会が、幸果達にマイクを向ける。
「さて幸谷さん、女性でありながら、個人戦と団体戦の二冠に手が届く所まで来ているわけですが、どうですか?」
「そうですね~がんばります~」
「今回チームメイトを女性だけで固めたのは何か理由があるのですか?」
「特に理由はないですよ~?一緒にやりたいと思った人たちが女の子だっただけです~」
「なるほど、けど、やっぱり女性だけだと大変じゃないですか?」
その後も司会は、幸果たちが女性である事をことさらに強調してくる。
確かに、格ゲー業界で女性は少数派だ。
ゆえに、その部分を取り上げて話題を盛り上げたいと言う意図は決して間違っては居ないだろう。
だが、愛名はなんだか少しイライラしていた。
確かに自分も最初は、「女性なのに優勝なんて凄い」と幸果のことを思っていた。
けれど、実際に本人に触れて、側に居てわかったことは、男も女も、性別なんて関係無く、ただこのゲームが好きと言う想い。
そして、この大会の為に努力を積み重ねてきたと言う事実。
それだけだ。
だから、女性である事をあまりにも強調されるのは、なんだか、いちプレイヤーとして認められていないような、そんな感覚にさいなまれてしまう。
「そうですか、では、あなたはどうですか?女性ならではの苦労などは」
今度は、菜射に話を振る司会。
「いや、別に女だからどうこうって事も無いっス」
菜射も同じ気持ちな様で、少しいらだちが言葉に出ていた。
「では、お嬢さんはどうですか?可愛い女の子なのに格ゲーなんて…みたいな葛藤とか無かったですか?」
自分に振られたその言葉に、愛名は今までの出来事が一瞬で脳裏を駆け抜けた。
そんなんじゃない………!
女だからとか、そんなんじゃない………!
私は一人の人間として、そしてプレイヤーとして……!
「………あの?」
なかなか答えが返ってこない愛名に、司会がもう一度問いかける。
愛名は、向けられたマイクをバッ!と奪い取り、叫んだ。
「…私達が見せたいのは!外見でも、性別でも有りません!……ただ一つ…実力だけです!だから、勝ちます!格ゲーに、男も女も関係ないって!勝って、証明して見せます!」
その唐突な叫びに、会場は一瞬沈黙したが、次の瞬間………
「「「「「「うぉぉぉおおぉおおぉおおおおおおぉおぉおおおおーーーーー!!!!」」」」」」
会場を、この日一番の歓声が包みこんだ。
愛名は、その声と、自分の行動に驚いたが、幸果の笑顔と、菜射の「よく言った!」とばかりに立てられた親指に、少し誇らしい気持ちになった。
そして、試合が始まる――――――
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