オリジナル小説『私イズム!』第31回。
第八章
[ラスボスは、卑怯なくらい強いのが丁度良い] その5
テーブルクロスを重ねる起き攻め!
ここで愛名は、今までに無い動きを見せる。
テーブルクロスを出した後に、ジャンプをする。
起き上がったトイズは、まずテーブルクロスをガード。
そして、続いて来るであろうチココの[ジャンプ攻撃]をガードしようと立ちガードしていると………チココは技を出さずに着地し、直ぐに下段の[しゃがみ弱攻撃]から連続技!
中段のジャンプ攻撃と見せかけて、何も出さずに着地して下段。
[スカシ下段]と呼ばれるテクニックだ。
(まだまだここからです…!)
そして再びテーブルクロスからのジャンプ!
今度はトイズも警戒し、チココの動きを観察して、技を出さずに着地すると読んでしゃがみガードに切り替えた!
だが……!
愛名は、着地寸前の低空で空中ダッシュ!
そこからの[ジャンプ中攻撃]をだし、しゃがんでいるトイズにヒットさせる!
空中ダッシュの高度を誤ると、敵を跳び越してしまうこのテクニックは、ギリギリの高さでダッシュする感覚を掴むのが重要になる。
愛名の成功率は決して高くなかったが、重要なのは、この場面で成功させたと言う事!
(全てを…!練習してきた全てをっ!)
そして着地し、再び連続技からダウンを奪う!
この段階で、トイズの体力は約五割まで減っていた。
「これは……まさかの逆転があるのかーー?!」
実況も、観客も、流れが変わりつつ有る事を感じ始めていた。
何かが、起きるかもしれないという予感……!
三度の起き攻め!
またしてもジャンプする愛名。
トイズの選択は……バックステップ!
テーブルクロスを避ける!
しかし…………愛名はそれも読む!
先程よりも高い位置で空中ダッシュを始めていたチココは、バックステップの降り際の隙に空中ダッシュからの攻撃を叩き込む!
「またしても起き攻めが決まったぁぁぁあぁ~~!!鬼が!鬼が居ます!起き攻めの鬼が、今この瞬間に生まれました!このまま最後まで倒しきってしまうのか!?」
(もとより、もう逃すつもりはありませんっ!)
空中ダッシュの降り際は少し浮いているので、そのまま空中連続技へ!
まずは[立ち中攻撃]!
「「「「「「「ハイッ!」」」」」」」」
観客もノッて来て、技が決まるたびに掛け声を上げ始める!
[立ち中攻撃]から、[立ち強攻撃]へ!
「「「「「「ハイッ!」」」」」」」」
そこから、[しゃがみ強攻撃]→[ジャンプ弱攻撃]!
「「「「「「ハイッ!ハァイッ!」」」」」」」
[ジャンプ中攻撃]→[ジャンプ強攻撃]→[ジャンプ叩き付け]!
「「「「「「ハイッ!ハイッ!ハァイッ!!!」」」」」」」
会場が、凄まじい一体感で包まれる!
しかし愛名は、そこで一度連続技を止める。
本来ならば、もう少しダメージを稼げるのだが………失敗?
否!そうではない!
この流れで連続技を止めると、相手は非常に低い位置で受身を取る事になる。
(ここで……狙います!)
……トイズが受身を取った次の瞬間に[しゃがみ強攻撃]のアッパー!
「ここで[補正切り]決まったぁぁぁぁぁぁぁぁああぁ―――――!!!!」
「「「「「「「「「「「うぉぉおおぉおぉぉおーーーーーーーーー!!!!!」」」」」」」」」」」」」
会場の歓声はさらに高まる!
[補正切り]とは、[ダブルアップ]とも呼ばれる、ダメージアップを狙うテクニック。
格闘ゲームは普通、「連続技補正」「ダメージ補正」と呼ばれるシステムにより、連続技のヒット数が増えれば増えるほどに、一発のダメージが少なくなるようになっている。
その為、わざと途中で連続技を止め、再び一発目から当てるテクニックは、ダメージアップに非常に有効なのだ。
しかし、これはもちろん、二度目の連続技を避けられたり、逆に反撃を受ける可能性もある諸刃のテクニック。
愛名が、チココが逆転するためには賭けるしかなかった!
そして、賭けに勝った!
(当然、当然、当然ですっっ!!ここで勝てずに、何が綾塚ですか!なんのために、私は努力をしてきたの?
……勝つため!ただそれだけの為にっっっ!!)
「「「「「「「「「ハイッ!ハイハイハイッ!ハァイッッ!!!!」」」」」」」」
連続技に合わせて響く観客の声!
減っていくトイズの体力!
気付けば、お互いの体力差はほぼ無くなっていた!
「うぉぉぉぉ!!!相応しい!最終戦に相応しい熱い試合になって来たぜぇぇぇーーーー!」
プレイヤー、観客、実況、会場スタッフまで、
全ての想いが、視線が、熱が!
今、確実に一つになってた!
たかがゲーム。
人はそう言うだろう。
何を熱くなっているのかと、冷ややかな視線を向けるだろう。
だが、誰がなんと言おうと、この熱さは、この想いは!
この興奮は、感動は!
全てが、本物だ!
この魂の震えを、誰にも否定させてなるものか!
連続技の締めを、ジャンプ叩きつけで締めて、再びダウンを奪う!
(来た……!最高のチャンスが来たっ!!)
ここで起き攻めが決まれば、そのまま倒しきれる!!
すぐさま近寄り、テーブルクロスを重ねるチココ!
(……どうする……?ここで下段?中段?投げ?……ええぃ!とにかく、手の動くままに…!)
悩みながらも、起き上がりを攻めようとする愛名。
だがそこへ……!
「待って!ガード!」
背後から、幸果の声!
愛名は慌てて、レバーを後ろに入れてガード!
次の瞬間……!
画面が暗転!
ゲージ技の演出だ!
しかもこれは、[3ゲージ技]!
トイズの[3ゲージ技]は、無敵時間が有り、ダメージも高く、ガードされても隙が無い、と言う高い性能を持っている。
つまり、起き攻めを凌ぐには最適な技と言えた!
「ああっと!トイズの渾身の3ゲージ技をチココガード!よく見ていた!」
(危なかった……!あのまま攻めていたら…!)
愛名は背中に寒い物が走った。
と同時に、幸果に対する感謝の想い。
最後の最後で、愛名はまた知った。
これがチーム戦!これが……仲間!
一人だったら、気付かないままに負けていただろう。
勝負を焦って、相手のゲージを見落としていたのだから。
けど、自分には仲間が居る!
ピンチの時に助けてくれる仲間が……!
一人じゃない!
それが、こんなにも頼もしくて嬉しい!
だから……!
ガードした後、すぐにダッシュで攻め込むチココ!
……その瞬間…愛名には、見えた。
ガードされたトイズが、バックジャンプで距離を離そうとする、その瞬間が…見えた!
そして、瞬間的に、指が、体が、反応する。
考えるよりも先に、体が動く!
逃げようとするトイズに、チココの[しゃがみ強攻撃]アッパーが決まる!
「ここでアッパーが刺さるぅぅーーー!!!」
「「「「「「「うおおおおおおお!!!」」」」」」
ここから空中連続技へ!
「行きなさいっ…!」
[ジャンプ弱攻撃]→[ジャンプ中攻撃]!
「「「「「「「「「「「ハイッ!ハイッ!」」」」」」」」」」」」
さらに二段ジャンプから、[ジャンプ中攻撃]→[ジャンプ強攻撃]
「「「「「「「「「「ハイッ!!ハイッ!!」」」」」」」」」」」
「行きなさい……!届いて…!届け!」
そこから[ジャンプ武器攻撃]に繋げて…!
「「「「「「「「「「ハァイッッ!!」」」」」」」」」」
脳裏に浮かぶのは、ここ一カ月の出来事。
全てが輝いていて、今自分がここにいることも、まるで奇跡のよう。
けれど、私は掴んだ。
今を、この瞬間を!
「いっけぇぇええぇぇぇぇ!!!!決まれぇぇぇぇ!!!」
愛名は、魂を振り絞り叫ぶっ!叫ぶっっ!!
そして祈りを込めて打ち込む技は―――チココの2ゲージ技!
『いっきまぁぁあぁーーーーす!』
空中で発動し、地面に叩きつけた相手に、コップ、お皿、ほうき、ちりとり、雑巾、モップなどのメイド必須アイテム達を次から次へと投げつける!
しかもこの技は、ボタンを連打すればするほどにダメージが上がる性質!
「ぃぃいいいぃぃいいいいややややゃゃぁゃゃぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!」
叩く叩く叩く叩くっっ!!
ひたすらに、指が動く限り、いや、動かなくなっても限界を超えてボタンを叩くっ!
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!!!!!!!!
「ぎぃっ!」
指がつりそうになる…!
それでも、止めない!
止まらない!!!
全ての指を、腕の筋肉を!
今まで生きて来た全てを!
ここで、この連打に叩きこむ!!
『やあああああぁぁぁあーーーー!!』
「うぁぁあぁぁああぁぁーーーー!!」
チココと愛名の叫びがシンクロする!
「「「「「「「「「「「「「うおおぉぉおおぉぉおおぉ!!!」」」」」」」」」」」」
会場の声援も、愛名の背中を押すっ!
「ぎぎぎ・…ぎ…!えやぁ!」
ダダダダダダダダ…ダンッ!
愛名の指の限界と同時に、技が止まる!
そして、技の終わる演出として、最後にチココ自身が相手の上に足から着地!
「「「「「「「「「「「「「「ハァァァイッッ!!!」」」」」」」」」」」」」
その瞬間、その場にいた全員の視線が、トイズの体力ゲージに向かった。
残り体力は―――――――――――――ゼロ!
『決着!』
画面上に表示されるその文字と言葉……!
「き……決まったァァァァァァーーーーー!!!第九回『闘演舞』「PWM」優勝は、「キューティープリティービューティーズ」!幸谷 幸果!三葉 菜射!綾塚 愛名!この三人が、全てのプレイヤーの頂点だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーー!!!!!」
その日最高の歓声と、興奮と、感動が会場を熱く染め上げる中、愛名、菜射、幸果の三人は歓喜に泣きながら、強く抱き締めあった。
「ありがとう…!ありがとうございます!」
「こっちこそ、ありがとうだよ愛名!」
「ありがとう、愛名ちゃん~」
三人は、他に言葉が見つからないかのように、感謝の言葉を言い続けた――――。
――――そしてこの瞬間、相手をダウンさせたら(寝かせたら)起こさずに倒しきる[永久子守歌]綾塚 愛名の名は、格ゲー界へ知れ渡る事となったのだった。
第32回につづく。
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